「ごめんね、私なんかのせいで」

「痛っ!」

「だ、大丈夫?」



俺の暴走も収まって、今は朝倉先輩に医務室で治療して貰ってる。テニス以外にあんなキレたのいつぶりだっけか、なんてくだらない事を考えつつも、頭ん中ではまず最初にこの人に聞かなきゃいけねぇ事があるのもわかってっから、俺は意を決して口を開いた。



「あの」

「うん?」

「…本当にモデル、なんすか?」



そう、聞きたかったのはまさにこの事だ。他の奴らはあんな男共が言った事だからデマだって思うかもしんねぇけど、俺はそう思わない。きっと丸井先輩と柳生先輩だって同じだ。あっさりと受け流すには見逃せない点がいくつもあった。



「俺、前の練習試合でアンタが眼鏡外した所見ちゃったんすよ」

「…え?」

「横顔だったし、見たのは遠くからだったから、モデルの誰だ!とは言い切れないんッスけど…めちゃめちゃ、綺麗でした」



ずっとずっと気になってた。先輩が何者なのか、なんでこんなに綺麗なのか、なんでこんなに優しいのか。気になってる理由は自分でもよくわかんねぇ。でも、ずっとずっと気になってた。



「お願いッスから、本当の事言って下さい」



こんなに人に縋りつくような頼み方したのも初めてで、内心ダッセーと思いながらも軽く頭を下げる。そんな事を考えて自己嫌悪に陥っていたら、頭の上から朝倉先輩の優しい声が聞こえた。切原君、顔上げて。そう言われてとりあえず顔を上げ、先輩と目を合わせる。



「もう、わかってるよね?」

「…やっぱり?」



苦笑しながら頷いた先輩に、予想はしていたもののやっぱり混乱状態になる。…マジかよ。モデル?この人が?いや、確かに納得出来るぜ、出来るけどよ。そんな俺に追い打ちをかけるように、朝倉先輩はまた動き始めた。



「えっ、でもそうだとしたら誰―――…?」



問いかけた言葉が途中で不自然に途切れる。無言で髪をほどき、眼鏡を外し始めた先輩。どんどん露わになっていくその顔は、生まれてから一度だけ生で見た事がある。それも割とつい最近だ。そう、最近…って…。



「Miu…?」

「制服撮影の時は協力ありがと、赤也さん」



完全に露わになった先輩の素顔に俺が全力でビビッてる間にも、先輩はニッコリ微笑んでそう言ってきた。…いやいやいや。そんなオチないでしょ流石に!口をぽかーんと開けている俺をよそに、先輩はもう一度髪をくくり始めた。



「ありえねぇ…」

「ありえちゃうんだなぁ。ちなみに秘密は厳守でお願いします」



その言葉に返事をした自分の声は、真田副ブチョが聞いたら確実に張り倒されるくらい情けなかった。放心状態の俺の腕を取って治療をしてくれた先輩にお礼を言うけど、それもまた情けない。更には、今迄とは違う何かが俺の中で出てきたのを全身で感じて、俺どうなっちまうんだろう、と柄にもなく真剣に思った。



***



「なぁなぁ、おかわりあるー?」

「あるよ、はい」

「おおきにーっ!」



あれからしばらくしてから夕食を作り初めて、今日テーブルに並んだのはオムライスだ。真っ先におかわりしてくれるのは何事も早い金ちゃんで、作っておいた卵をチキンライスの上に乗せる。



「…ん?」



他にもおかわりする人いないかな、と思って食堂を見渡していると、先程一悶着あった切原君とばっちり目が合った。だから軽く微笑んでみたものの、彼は軽く頭を下げてきた後に物凄いスピードで食べ始めた。んー、やっぱり相当驚かせちゃったんだなぁ。そう思って申し訳なさがまた込み上げてくる。

とそこで景吾に呼ばれたから、私は嫌な予感を胸に抱きつつもそっち向かった。オムライスはまだ残ってるからおかわりではないだろうし、となると、そうなりますよね。



「バレなかったか?」



やっぱり。予想通りのその言葉に私は苦笑し、俯いた。



「…ごめんなさい」

「…馬鹿野郎」



他の人に聞かれないよう隅っこへ移動したのを良い事に、軽く頭を小突かれる。千里の時とはまた状況が違うにしても、あれも充分不可抗力だと思うんだけどなぁ。



「だって、あんな目で頼まれたら言っちゃうよ」

「アイツが口外しなければいいんだが。切原に千歳か…多少厄介だな」

「流石にこれ以上は無いと信じたい」



自分にも言い聞かせるようにそう言えば、次に景吾はとんでもない事を言いだした。



「だが、立海やウチの中では気付いてる奴もいるぞ」

「え?」

「Miuって事じゃなくて、モデルって事にな」

「もしかして、切原君の暴走の原因皆に伝わってるの?」

「あぁ」



あまりにも淡々と言われたものだから私もどうする事も出来ず、無理矢理仕方ない事として自分の中で収めた。いや、確かに仕方ないとは思うけど。



「立海と氷帝なんて鋭そうな人沢山いるじゃん」

「ウチはわからねぇが、立海はいるな」

「…気をつける」

「困った事あったら呼べよ」

「ありがとう」



終始浮かない表情を浮かべる私に、景吾は頭を軽く撫でながらそう言ってくれた。よく景吾は非情だとか周りから言われたりするけど、私やレギュラーの皆からしたらそんな事は全然ない。



「なんだかんだ優しいよね、景吾って」

「…うるせぇよ」



素直じゃないけどね。それから私達はまたテーブルに戻り、夕食の続きを取り始めた。
 4/5 

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