「泉さん!」

「どうしたの?」

「幸村さんが…」



マネ室にてドリンクの用意していると、朋と桜乃はおもむろに精市の名前を出して来た。2人の視線は窓の外にあるからそれを辿って視線を移せば、そこには少し深刻な表情で手招きをしている精市の姿があって、何だろうと思いながらも心配そうな表情を向けてくる2人の間を通り抜けてそこを出る。



「何かあった?」

「多分対したことないと思うんだけど、赤也がちょっとね」

「怪我?」

「多少ね」



一向に表情が晴れない精市に対しとりあえず何があったのかを聞くと、そんな曖昧な切り返しをされる。怪我って…転んで足捻ったとか?もしくは他校と喧嘩?何はともあれ、とりあえず救急箱と濡れタオルでも持って行こう。そう思い行動に出る前に、私は今一度精市に向き合った。



「精市は大丈夫?」

「え?」

「なんか随分深刻な顔してるから」

「…部員の暴走を止められないのは、部長としていかなるものかと思ってね」



切原君に何があったかはコートに向かってる真っ最中の今じゃまだわかんないけど、それを聞いて他校との喧嘩という予想に天秤が傾く。



「あんまり気落ちしないでね。ていうか、精市がそんな事思ってるって切原君が知ったら、それこそ彼が落ち込みそう」

「あいつ俺の事大好きだからね。…ありがとう」



事情を知らない私が無闇に言葉をかけるのも変な話なので、少しおちゃらけて言ってみせればその顔にはいつもより頼りない笑顔が浮かんだ。でもすぐにまた深刻な表情に戻る。



「俺が目を離した隙に起こった事だからな。真田に制裁してもらわなきゃ」

「…真田君にそんな度胸あるのかな」

「何か?」

「イエナニモ」



そんな風に会話をしていたら、立海のコートにはすぐに到着した。わざわざ見渡さなくても目に映った光景に、



「離せ!ぜってぇぶん殴ってやる!!」



耳に入った罵声に、一瞬体が固まる。



「赤也!どうしたんだよお前!」

「落ち着きんしゃい」



むしろ喧嘩であってくれれば良かったのに、と不謹慎な事を思うと同時に、さっき精市に軽い言葉をかけた自分を酷く責めたてたい気持ちになった。



「驚かせてすまないな」

「切原君は興奮状態に陥ると赤目になり、更には暴力的になる場合もあるんです」

「そう、なんだ」



柳君と柳生君の説明に一応は返事をするけど、普段の切原君からは考えられないその表情に、思わず身が震えるのを感じた。…こんな感情を抱いてしまうのは切原君に申し訳無いとは分かっている。それでも、この瞬間の彼を怖くないと言えるほど私は強くなかった。

目を覆いたくなるくらいの威力の鉄拳を真田君が食らわしても、切原君は赤目のままでずっと叫んでいる。原因はまだわからないけど、丸井君、ジャッカル君、雅治が抑えつけている切原君の元へ私は恐る恐る駆け寄った。



「切原君」



そうして小さく名前を呼んでみると、見開かれた赤い双眸が私を捕えた。無茶苦茶に吐き出されていた暴言が一度止まり、荒い呼吸がコート内に響く。



「アンタ、何者だよ」



今にも泣きだしそうな詰まった声で言われたその言葉は、私の胸に錘のように圧し掛かった。
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