「宍戸さん、おはようございます!」

「お、おぉ」

「今日も良い天気ですね!あっ打ち合いましょうよ!」



普通にしてても爽やかな長太郎が、爽やかを通り越して若干ウザいくらいのテンションになったのは確か4日前くらいからだ。暗いよりはよっぽど良いがこう明るすぎるのもなんというか、俺がそこまで朝はテンションが高くないだけついていけないというか。

「どんどんいきましょー!」とブンブンラケットを振り回している長太郎を、俺だけじゃなく他の奴らも不思議そうに見ている。何が理由でこんなんになったのかは知らねぇが、幸いな事に練習自体には何の支障も出てない。むしろ絶好調なくらいだ。



「さーっ、今日は先輩に何を聞かせようかなー」



だから俺も必要以上に気にしないようにしていたが、ここ最近朝練が終わってから必ずと言っていいほど繰り返されるこの台詞については、流石に気になるようになってきた。まぁ、先輩って女だろ?(野郎相手にこんなウキウキしてる長太郎とか見たくねぇし)長太郎から女の話を聞いた事が無い訳では無いが、どれもこれも「告白されちゃったんですけどどうしましょう宍戸さん」とかそんな馬鹿らしい事だった。その長太郎が、今は自分から何か行動を起こしている。

っつー事で。



「お前、その先輩にいつ何処で何を聞かせてんだよ?」

「…宍戸さんなら邪魔しに来ませんよね?他の先輩には言わないで下さいよ!?」

「言うも何もその先輩がわかんねぇのにどうしろっつーんだよ。大丈夫だ、行かねぇから」



そう言えば長太郎は一度周りを見渡してからそのデカい図体を縮こまらせ、俺だけに聞こえるように耳元で呟いた。



「えっと…その先輩には、放課後の部活が始まるまでの間、第一音楽室でピアノを聞かせてるんです。うわ言っちゃった恥ずかしい!」

「…ほぉ」



だがすまん、長太郎。



「頑張れよ」

「はいっ!」



好奇心ってヤツには勝てねぇんだな、コレが。お前のその乙女みたいな言動見逃してやるから許してくれ。

俺の隣を相変わらずハイテンションに歩いてる長太郎を無視して、俺は放課後の計画をつらつらと頭の中で練り続けた。



***



今日は何を聞かせてくれるのかなー。そんな事を思いながら浮き足立っている自分に気が付いて、ちょっと気分を鎮める。

鳳君と不思議な出会い方をしたあの日から、4日後の今日。あれ以来鳳君からは毎日メールが来るようになって、約束通り放課後音楽室にピアノも聞きに行っている。最初の2日間はやっぱりまだ慣れなくて会話に詰まったりしてたけど、今じゃ会話を楽しめるほどにまでなった。律儀な鳳君は弾く前に曲名を言ってくれるから、気に入った曲は家に帰ってから調べる事もできる。中々無い出会い方ではあったけど、凄く良い後輩だなぁと純粋に思えるようになった。



「泉ー」

「あ、はい!」



と、放課後の事ばかり考えていたら次は移動教室な事を忘れてしまった。ちなみに教科は体育だ。



「泉」

「ん?」



準備としてロッカーからジャージを出していると、ふと景吾が低めの声で話しかけてきた。隣にはいつも通りジローもいるものの、いつになく真剣なその表情に首を傾げながら返答する。



「忍足は俺が寄せ付けないようにしてやる」

「毎日のように脚求められちゃ泉が可哀相ー」

「頼んだよ2人とも」

「や、やっぱり扱い酷い」



それは果たして真剣な表情で言う事なのでしょうか、というツッコミは心の中に留めておいた。…そう、体育の時はいつも忍足君が私の脚を求めてというか、観察してくるというか、まぁそんな感じだからその度に景吾とジロー(香月は大体競技に集中してる)が助けてくれる。だから別に苦にはなってないにしても、忍足君も物好きだなぁと常々思う。



「ほんっとあの変態どうにかしなさいよ部長ー」

「俺に押し付けんな」



…いやでもやっぱり謝っときます、何かごめんね、忍足君。
 2/5 

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