「うーん、どうせならやっぱりもっと可愛い子が良かったにゃー」

「じゃあ小坂田か竜崎あたり相手にしてればいいんじゃないッスか?」

「あの子達はお前だろー!?」



此方は青学テニスコート。菊丸の嘆きに越前が適当に返事をすると、それを厭味と捉えた桃城は彼の頭をぐりぐりと抑え付けながら飛びかかった。



「まぁ僕と越前的にはそっちのほうが助かるけどね」

「おいおい…」



1人が話始めると止まらなくなる彼ら。大石が胃を抑えているように、いつ手塚の喝が飛んでくるかが心配な所だ。



「不二先輩は邪魔しないで下さいね?」

「それは聞き入られないなぁ、いくら可愛い後輩の頼みでも」

「お前達、まだ朝倉の話をしているのか」

「てっ、手塚」



越前と不二の間に軽く火花が散りかけたところにとうとう手塚が現れ、1番避けたかったこの状況に大石は再び胃を抑えた。しかし、彼の予想とは違い、手塚は喝を飛ばさずにただただ呆れ返った様子で彼らに話しかけた。



「乾、2人に情報提供してあげたらどうだい?」

「残念ながら、基本的にノートの内容は極秘だから」



そう言いノートを見てニヤける乾に、河村は苦笑する。その隣では未だ不二が心底楽しそうに笑っており、そんな彼を横目に海堂はよからぬ予感を抱いた。大変だな、あの人も。そんな彼の同情が泉に届くことは果たしてあるのか、とても難しいラインである。

この合宿、どうなることやら。



***



「よし、そろそろだね」



休憩まで後5分足らずとなったところで、ドリンク、タオルが入っている大きなカゴの元に近付き、運び出す準備を始める。前に氷帝と立海の臨時マネージャーをやった時は手渡しだったけれど、この人数でそれは不可能なのでやるつもりはない。むしろ頼まれてもやらない。



「気をつけてね?重かったら合間合間で休むんだよ?」

「はいっ、でも、あの」

「泉さんは1人で大丈夫なんですか?」

「私は大丈夫、こう見えて力は割とあるんだ」



不安げに心配してくれた2人には笑顔で返事をし、調子に乗って頭とか撫でてみる。だってもー、本当に素直で可愛いんだものー。ていうかむしろそれよりも、マネージャー経験が浅い私が仕切ってしまってることの方が本当に良いの?と聞きたいくらいだ。



「あ、休憩の合図かかったよ。じゃあ後でね」



と思っている間にも休憩に入ったので、とりあえずそう指示を出せば2人は元気な返事と共に駆け出して行った。さっきも言った通り、マネージャーとしては2人の方が全然先輩だけど、こうも素直に慕われると猫かわいがりしてしまう。一生懸命カゴを運んでいる小さな2つの後姿を見送ってから、私もカゴ2つをいっぺんに持って担当の学校に足先を向ける。

が、これが結構重い。女子の中で腕力はある方だと自負していたつもりだったけれど、膝に来る重さに若干体がふらつく。でも此処で踏ん張らない訳にはいかないので、私は今一度持ち直してから歩き始めた。



「あ、あれ?」



のだけれど、数十歩も歩かないうちに不意に片腕が軽くなった。突然の出来事に間抜けな声が出る。意気込んだ直後だったせいかちょっと、いや、結構な勢いで拍子抜けだ。



「そない細っこい腕でこんなん2つも持ってたら折れますわ」

「へ?え、えっと」



軽くなった腕の方もとい、声がした方に視線を横に向けると、そこには派手なピアスをしている、四天宝寺のユニフォームを着た人が立っていた。持ってくれるのはありがたいけど名前がわからないという、我ながら最低だ。それに、折角の休憩時間なんだし持ってもらうのもなんだか悪い気がする。けれどもこの雰囲気じゃどうせ言ったって返してくれなさそうなので、散々考えた結果やっぱりここは甘えとくことにした。



「財前です。四天宝寺2年の財前光」



更には私の考えを読み取ってくれたのか、財前君は自分から名乗ってくれた。開会式の時から四天宝寺は賑やかだったから、こんなに落ち着いた子もいるんだなぁと新発見。



「よろしくね。えっとー自己紹介したほうがいい?」

「泉さんやろ?わかっとるからせんでえぇっすわ。っちゅーかこれウチんとこに持ってけばえぇんすか?」

「いや、四天宝寺のはこっちのカゴだから、こっち持ってってくれたらうれしい」

「じゃあ交換」



カゴを交換する時に一瞬手が触れると、財前君は顔には出さないもののすんません、と一言呟いた。妙に漫画チックな展開に柄にもなく気まずさを感じる。

まぁそれはおいといて、財前君、か。一見冷たそうだけど、こんな気遣いをしてくれるってことはきっと優しいんだろうな。



「噂してましたわ」

「何を?」

「ウチの先輩ら、特に白石部長が」

「…私のことを?」

「他に誰がおるんですか。興味持たれたみたいっすよ、良かったやないですか」



すると財前君は急にそんなことを言い出し、自分の中で一気にテンションが急降下するのを感じた。噂されて嬉しい?興味持たれて嬉しい?ごめん、財前君。…全く嬉しくないんですが。



***



「いや、全く持って嬉しくない」

「…はい?」



目の前を不安定に歩いてた泉さんがおったから、手伝うのも含むついで話しかけてみた。勿論、どんな人か探るっちゅーのが本来の目的やったんやけど、なんや不思議な人やなぁと思わず目を丸くする。あの白石部長が気に入ったんやで?頭も顔も運動神経も良い白石部長に気に入られた女子なんて今までおらんっちゅーのに。普通浮かれるもんちゃうん?



「嬉しないんですか?」

「友達が増えたのは嬉しいけど…興味持たれるほどの人間じゃないよ、私」

「跡部さんと一緒におる時点で興味出ますわ」

「最初はそんなつもりなかったもの。結果的には良いけど」



ようわからん泉さんの言い分に、はぁ、と言葉に詰まる。



「ちゅーか勝手に泉さんて呼んどるけど良かったっすか」

「じゃあ、光君ね」

「ん」

「それじゃ、わざわざありがう。私立海に配ってくるから、またね?」



でも確かにこの先もうちょい話してみる価値はありそうやな、と思っとると、バッドタイミングなことに泉さんはカゴを抱え直して立海のテニスコートの方に足先を向けた。で、去り際、泉さんは俺に笑顔を向けて来た。

え。



「…何やあれ」

「ざいぜーん!ドリンク頼むわー!」



ほんまに一瞬のことやったけど、何故かあの顔が頭から離れへん。え、あ、何一目惚れ?いやいやいや。もう一度よく考え、俺。あー謙也さんうっさい。とりあえずドリンク飲んで落ち着こ。

…うま。

ドリンクの美味さといいあの笑顔といい、さっきまであった自分の中の余裕っちゅーもんが一気に消え去って、俺はただただその場に立ち尽くした。カゴを中々持って行かん俺に痺れを切らした謙也さんが怒鳴りながら近付いて来て、ほんで俺の様子を見るなりしつこく話しかけてきたけど、それにすら対応出来んかった。おぉ、なんやこれ、やばいんちゃう俺。
 4/8 

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