「不思議ちゃんやなぁ」



此方は四天宝寺テニスコート。練習中唐突にそう呟いた白石に対し、千歳は怪訝な目を彼に向けた。



「何事ね?」

「泉や。氷帝の臨時マネ」

「あぁ、あの子か」



普通の地味な子に見えるばい、と言葉を続ける千歳に、白石も同意するように頷く。しかし彼はそれだけで言葉を終わらせなかった。



「俺はようわからんのやけど、跡部と幸村の態度が気になってなぁ」

「どんなー?」

「あんたら何ニヤニヤしてはるんすか」

「ニヤニヤて失礼なやっちゃなお前」



うーん、と顎に手を当てて考え込み始めた白石と千歳の元に、財前がスタスタと歩み寄って来た。そうすると他の者達もわらわらと集まってきて、一気に賑やかな雰囲気となる。練習中ではあるが、流石仲良し四天宝寺である。



「何々何の話ぃー?」

「俺達も仲間にいれたってや!」

「なー白石ぃー試合しようやぁー?」

「いっぺんに言い過ぎて何がなんだかわからへんわ」

「うむ」



ホモップルと遠山のマイペースさに、思わずツッコむ謙也。それには普段あまり反応しない銀も同意した。



「俺まだ白石と話途中たい」

「せやなぁ」

「せやからなんの話っすか」



周りに話を遮られた千歳が不服そう愚痴ををもらすが、そんな彼のことなどお構いなしに、財前は話に割り込もうと言葉を重ねる。物怖じしない態度は今も尚健在のようだ。それに白石は苦笑し、「泉の話やで」と一言だけ返事をする。



「はい?あのマネっすか?確かに綺麗な顔してはりますけど」

「そーなん?ちょい地味すぎちゃう?」

「ま、謙也さんには一生かかってもわからんでしょーね」

「何やと!?」



後輩に馬鹿にされた謙也は財前に飛びかかり、そのまま2人はもみくちゃになりながらコートに消えて行った。その様子を見て千歳はようやく続きを話せると言わんばかりに白石に向き直る。



「もーちっと情報が欲しいとねぇ。じゃなきゃなんもわからんばい」

「なら探るまでやろ」



サラッと大胆なことを言いのけた白石に、それを聞いていた者は若干苦笑した。いつもは問題児ばかりの彼らをまとめる部長だが、時に自由気ままな発言をするのは珍しいことでもない。しかしそんな中でも遠山だけは「早く試合!」と平然としており、バランスがとれているのかそうでないのかグダグダな状況の中、各々練習を再開し始めた。



***



「ねぇ剣太郎」

「んー?」



此方は六角テニスコート。持ち前の体の柔らかさを惜しげも無く使いアップしている葵に、佐伯は同じように屈伸をしながら話しかけた。



「あのマネージャー、どんな子だい?」

「お、なんだよサエ!興味あんのか?」

「女の子に目が冴えるサエさん…プッ」

「よーし死ぬかダビデ」

「え、そんな爽やかに言わないで!」



急に話に割り込んできた黒羽と天根は、割り込んできたかと思うとそのまま逃走劇を始めた。そんな彼らを横目に、2人は話を続ける。



「皆地味地味っていうけど凄く良い人だよー、なんか女性らしいし!」

「あの跡部と対等に話してたくらいだからなぁ」



開会式のことを思い出しているのか、佐伯は空を仰ぎ見ながらそう呟いた。葵が素直なことを彼は勿論知っているので、その言葉には充分信憑性がある。



「クスクス…何の話?」

「ねぇなんで練習しないの?なんでー!」

「はいはい今しますよ!皆コートに入ってー!」



まだ佐伯は色々と聞き出したかったようだが、何せ今は練習時間だ。葵の言葉で彼らはとりあえずコートに入り、雑談はお開きとなった。

そんな元気な彼らの後姿を見つつも、佐伯の意識はまだ違うところにあった。跡部がいつもとは違う表情を浮かべていたのも気になるところだが、自分の幼馴染である不二が気にかけていたことも彼にとっては興味深い。

あの子面白いよ。さっき通りすがりざまにそう言われたのはまだ記憶に新しく、そしてそれは佐伯の中にしっかりと刻み込まれていた。1人楽しそうに微笑む彼は客観的に見れば格好良いのかもしれないが、この考えを泉が知った時、彼女は頭を抱えること間違いなしだろう。
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