「わぁー…広いなぁ」

「部屋も凄い広かったですよね」

「しかも超豪華!さすが氷帝ですねっ」

「いや、ここまでリッチな人は極一部だよ?ていうのはおいといて、仕事しますか」



場所は変わり、テニスコート。コートからは練習に励む彼らの声が聞こえる中、マネージャーである彼女達は泉のその一言を合図に仕事にかかり始めた。

今日の練習は、泉が立海、四天宝寺、小坂田と桜乃が氷帝、青学、六角のコートをそれぞれ担当することになっている。マネージャーの主な仕事はタオル、ドリンクの配布で、全校分の洗濯やドリンク作りは3人全員でやることに決めたようだ。



「よしっ、じゃあ行こっか!」



そして、いよいよ本格的に合宿が始まった。



***



「はぁ…泉先輩の姿が見えません…」

「お前いつもに増して酷くね?」

「だって他校生もいるからそこまで話せないし、放課後の楽しみもないんですよ!?もう耐えられません!」

「まぁまぁ、そう気を落とさずに」



此方は氷帝テニスコート。負のオーラを全面に撒き散らし項垂れているのは言わずもがな鳳だ。そんな彼に宍戸は呆れ、滝は優しく励ましている。しかし、そんな状態なのは残念なことに鳳だけではないようだ。



「つまんないCー…」

「泉ー…」

「ちゃんと練習せなアカンやろ?」

「全く、先輩の風上にも置けませんね」

「…こんなんであと1週間大丈夫か?」



保護者組がそう言うも、これでは学校で練習している時の方がまだ覇気がある。果たしてこの問題児のやる気をどう引き出すか、部長跡部が抱える大変な悩み事であった。



***



「なぁ赤也ー」

「なんすか?」



此方は立海テニスコート。練習が始まって間もなく、丸井は切原に歩み寄った。



「俺さー…」

「…まぁ言いたいことはなんとなくわかるッス。でも今練習しなかったら真田副部長にドヤされるっすよー?」

「だよなー…」

「…あー思い出したら鳥肌立ってきた」



数週間ぶりに泉と再会した2人、もとい素顔を見てしまったこの2人は、改めて目にした泉の姿に気が気じゃないようだ。素顔を見ただけでこうなるとは重症な上に現金だが、そこは彼らも思春期の男子。単純なのは今に始まったことじゃない。



「別に普通にしてれば良いんだけどよ、素顔知っちまったからなぁ」

「得したような損したようなって、感じッスね。部活に身が入らないなんて俺自分でもびっくりッス」

「丸井!赤也!何をしている!」



そんな2人を怒鳴りつけてきたのは、先程切原が名前を出したばかりの真田だった。2人は彼の姿を見るなり、ゲ、と声を合わせ、そそくさと各々の練習に取りかかった。

一方、こちらは。



「なぁ柳生、お前さん見たんじゃろ?」

「な、なななななんのことですかっ!?」

「顔赤くなっとるぞ変態紳士」



仁王と柳生、彼らも泉の姿を目の当たりにした一部の人間だ。仁王に至っては既に正体も知っているが。彼は、柳生のわかりやすすぎる動揺ぶりに若干呆れながら言葉を吐いた。



「わっ、私は変態じゃありません!」

「ほう、柳生は変態だったのか。新しいデータだ」

「柳君っ!」



そこに柳まで参戦し、変態紳士こと柳生は彼らの揶揄にすっかりムキになって対応した。そんな態度を見せれば見せるほどドツボにハマッていくことに、彼はいつ気付くのだろうか。



「参謀、お前さんはどう思う?朝倉のこと」

「非常に興味深いな。中身的にも、容姿的にも」

「うん、俺もだよ」

「…精市、急に背後に現れるな」



1人騒ぐ柳生を放置し、仁王は柳に質問を移す。柳がそれに対し答えていると、急に彼の背後から幸村が顔を出した。2人は予想外のことに驚いたが、当の本人は相変わらずの笑顔だ。



「ごめんごめん。まぁ、既に何かを知ってそうなブン太や赤也、それに柳生と仁王。これから知りたい俺と蓮二も、この1週間で知れば良い話さ。今は練習しないと真田の煩い喝が飛ぶよ?」

「キェエェエッ!!練習せんかぁ!」

「おー怖っ」



幸村の忠告通り真田の怒声がコートに響き渡り、雑談は強制的に終了した。



「気になるー!」

「もっかい見たいッスー!」

「お、俺に八つ当たりすんじゃねぇよ!てか何をだよ!」



が、コート内にはもどかしさからかジャッカルに八つ当たりする丸井と切原の姿が見られ、怒声はいつまでも響き渡る結果となってしまった。完全に巻き添いをくらったジャッカルは、もはや哀れとしか言いようがないだろう。
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