1日目

「今日は―――…」



開会式。今回は氷帝が合宿の主催校だから、景吾が代表して抱負、説明などを壇上で言っている。その姿が凄く様になっていて、やっぱこういうの向いてるんだなーと改めて思った。



「泉さん!」

「ん?」

「私達中学の時から合宿マネージャーやってるんで、なんでも聞いて下さいねっ!」

「頼もしいね、ありがとう」



そこで気前良く話しかけてきてくれた朋に、締めるように努力していた頬がまたへにゃりと緩む。なんにせよこういうことには本当に慣れてないから、そう言って貰えると本当に心強いのだ。



「あの、泉さん、跡部さんが呼んでますよ?」



だからその気遣いに心をホクホクさせていると、急に桜乃ちゃんがとんでもないことを言い出して、私の表情は一気に曇った。いやいや今は開会式でしょ?こんな大勢の前で私がやることなんてないはずだし、ありえないありえない。



「泉!聞こえてるか!」

「わー呼んでるやー」



と思いきやありえるんですかー。想定外の展開にふくれっ面になり、どうにかして行かなくていいようにならないかなとその場で考えていると、景吾は眉間に皺を寄せ、もう一度低い声で来い、と言った。流石にそこまで言われちゃあ、駄々をこねて無駄な時間をとるわけにもいかない。諦めがついた私は、かなり渋々壇上に行った。



「聞いてないんだけど」

「仕方ねぇだろ、お前だけ合宿初参加なんだから。監督に紹介するよう言われたんだよ、我慢しろ」



檀上でも文句を言ってみるけれど案の定言いくるめられ、半ば八つ当たりで引っ手繰るようにマイクを取る。そうして名前を言って愛想笑いを浮かべると、周りからはパラパラとまだらな拍手が起こった。ほら別に誰も必要としてないじゃん。景吾に降りていいぞ、と言われ背中を押されたのと同時にそそくさと降り、苦笑している朋と桜乃ちゃんの元へ駆け寄る。



「お疲れさまです!」

「いきなりだったんですね…」

「全くだよ、氷帝の人は皆唐突で」



なんて、本人達の前じゃ言えないけど。ちなみにマネージャーと部長陣は壇上の後ろに整列していて、皆の表情がよく見える。



「とんだ災難みたいだったね」

「本当にね」

「跡部ってこない過保護やったんやなぁ」



過保護っていうのかな、あれは。そう思い若干首を傾げていると幸村君と目が合い、彼はいつも通りの楽しげな表情をしていた。本人には何1つ伝わってないみたいだね。突如付け加えられたその言葉に疑問は深まる一方だったけど、そこで景吾が解散の合図をかけた為真相は聞けずじまいに終わった。



「泉さん、マネは部屋が一緒だから行きましょう!」

「うん、その前に荷物とってこなきゃ」

「じゃあ後で会いましょうねー!」



朋と桜乃ちゃんと約束を交わし、私も鳳君の元へ荷物を取りに行こうと歩き始める。



「ねぇ、朝倉さん」

「ん?」



すると再び幸村君に呼び止められ後ろを振り向くと、彼は「泉って呼んでも良いかな」と唐突に問いかけてきた。それに隣にいた白石君も続いて、特に断る理由も無いので二つ返事で了承する。2人がそうならということで私も名前で呼ぶことにしたけれど、急に呼び方を変えるのはちょっと慣れるのに時間がいるかもしれない。

そして2人と別れようやく鳳君の所に行くと、案の定「寂しかったです!」と精一杯抱きつかれた。抱き着かれるのにはもう慣れたとして(慣れって怖い)、鳳君はいやはや力が強い。息苦しくなった所を宍戸君が解放してくれたから助かったものの…自分で言うのもなんだけど、鳳君、本当に重症だと思う。



「せんぱーーい!後で会いましょうねーー!?」

「叫ばない!」



私が皆と別れ、1人でマネージャーの部屋に行く時にはそう叫ばれ、思わずこっちまで大声が出た。まぁ、なんだかんだ可愛いという言葉で片付けておきましょうか。その大きな体でブンブンと手を振る姿を見ながら、声を立てずに笑った。
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