「やっと着いたな、って顔色最悪だぞ」

「疲れた…」



あれから何回もトランプの相手をさせられた泉は、到着した時には既にぐったりと肩を落としていた。まだ合宿は始まってもいないというのに、そのあまりの顔色の悪さに跡部は苦虫を噛み潰したような顔をする。それにははっきりと、こんなんでこの先大丈夫なのか、という心配が表れていた。しかし彼は立場上先に合宿所で色々と指示を受けなければいけないので、心苦しいが泉を置いて駆けて行く。



「手貸しますか?」

「ありがとう」



入れ替わるように隣に来た日吉の、彼にしては珍しすぎる好意を泉は素直に受け取ったが、もはや手を貸すというよりもそのまま引っ張られている状態だ。



「ほな俺はこっちの手な」

「邪魔なんで消えてもらえませんかね」

「きょ、恐怖」



それを見て真似る忍足に、日吉は容赦ない言葉を浴びせる。しかし彼はそれにも屈せず、結局泉の手を取るなり上機嫌になった。泉に至ってはもうどうでもいいのかされるがままだ。



「青学どやった?」

「んー、まぁ基本的には良い人達ばっかりだと思うよ」

「危険なのは不二と越前やなぁ。まぁ素顔バレな大丈夫やろ」

「は?」

「え?」



泉のペースに合わせ、ゆっくりと合宿所までの道のりを歩く3人。が、その時忍足が軽く放った言葉に、2人は無意識のうちに足を止めた。同時に日吉は責める視線で泉を見たが、彼女も身に覚えが無いのでふるふると首を横に振る。



「…どうしてそう思うんですか」



数秒のアイコンタクトの末、日吉が代弁してそう問いかける。



「ん?だって泉、眼鏡とったらべっぴんさんやん」

「な、何を根拠に?」

「ほんまのべっぴんはダサイ格好だけじゃ隠しきれないんやでー」



しかし、彼の返事は予想に反してあまりにも陽気なものだったので、なんだ杞憂だったか、と2人は小さく息を吐いた。安心からか日吉に握られている手にきゅっと力を込めると、彼も同じように握り返した。

とまぁそのような一悶着があったが、3人はようやく合宿所の大広間に到着した。



「2人共ありがとう」

「いつでも頼ってや」

「危なっかしいですからね、貴方は」

「え、嘘ー」



大広間には既に全校が揃っており、それだけの人数となれば流石に騒がしい。その慣れない状況に泉がキョロキョロと周囲を見渡していると、ふいに誰かが彼女の肩を叩いた。



「泉、軽い部長ミーティングがあるからお前も参加しろ」

「はーい」

「先輩!荷物預かっておきますよ腕が赤いじゃないですか!さぁ早く!」

「あ、ありがとー」



後ろを振り向いた先にいたのは跡部で、泉はその言葉を聞くなり移動する準備を始めた。それを見て必死になり始めた鳳に苦笑いで荷物を任せ、2人はホールの隅で行われている部長会議に足を運ぶ。辿り着くとそこには各校の部長は勿論顧問の姿もあり、2人はこっちだ、という榊の呼びかけに応え彼の隣まで歩いた。



「アンタが氷帝の臨時マネかい?」

「はい、3年の朝倉泉です。よろしくお願いします。」

「アタシは青学顧問の竜崎スミレだよ!ホレ、お前達も自己紹介しな」



そこで竜崎に促され前に出て来た女子2人を、泉は思わずキラキラとした目で見つめた。



「青学1年の小坂田朋香です!朋って呼んで下さい!」

「1年の竜崎桜乃です、よろしくお願いします!」

「あと1年トリオがいるんだがね、もう先に合宿所の手伝いをしてるんだよ。仲良く協力して頑張っとくれ」

「はい!2人共よろしくねー」



自分には無い、年下ならではの活発さといじらしさに反射的に頬が緩む。タイプの違う2人とどんな風に会話に華を咲かせようか、そんなことばかりが彼女の脳内を占めている中、次は部長陣の挨拶が始まった。



「六角1年の葵剣太郎です!よろしくお願いしますー!」

「四天宝寺3年の白石蔵ノ介や、よろしゅうな」



幸村と手塚については旧知な為割愛し、1年生なのに部長やらレギュラーやらがいて凄いな他校、と泉は内心舌を巻いた。そうしていると誰かに背中を叩かれたので、誰だろうと思いつつ後ろを振り返る。



「あー…誰ぇ?」

「…へ?」



振り向いた先には、1人の老人が立っていた。誰、と問いかけられたものの、それはどちらかと言うと泉が言いたい台詞である。どうすればいいのか、と首を傾げていると、ふいに竜崎の大声が響いた。



「やっと来よったか!」

「泉さん、僕達の顧問のオジイです!」

「オジイさん?」

「オジイでぇ…良いよー?」



竜崎と葵の説明により六角の顧問と判明したのはいいが、そのあまりのマイペースさに若干呆気を取られる。そんな泉を見て跡部が軽く笑い、そうして日程も確認し終えたところでいよいよ開会式が始まった。

この1週間、果たして何が起こるのやら。予想出来ない状況に一抹の不安を抱きつつも、泉の心中はなんだかんだでやる気に満ちていた。
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