「どうしたの?」

「ジローが寝たのを見計らってたみてぇだが」

「うん、あのね」



翌日。芥川が寝たのを見計らい、泉は香月と跡部を屋上に呼び出した。勿論誰もいないのを確認し、鍵もしっかりと施錠する。



「まず景吾、私マネージャー引き受けるとにしたよ」

「…そうか。お前が決めたならいいんじゃないか」

「うん」



妙に吹っ切れた表情で報告してきた泉に、喜んでいいのか否か、複雑な表情で返答する跡部。それを疑問に思った香月が今度は口を挟む。



「でも何であんな渋ってたのよ?アンタ男テニの奴らのこと何だかんだ好きじゃない」

「うん、大好きだよ。…あのね、私香月に言わなきゃいけないことあるんだ」

「言わなきゃいけないこと?」



そこまでの会話で跡部は何かを察したのか、泉をジッと見据えた。泉もそれに深く頷いて応え、そして、ゆっくりと髪をほどき眼鏡を外す。



「…は?」



露わになった泉の素顔を見た香月は、口を大きく開け呆然としてる。跡部も跡部で素顔自体は初めて見たので、軽く目を瞠った。そんな2人の反応を見つつ、泉は言葉を続ける。



「いきなり驚かせちゃてごめんね。今回渋ってた理由はまぁ色々あるんだけど、1番はこのことが周りにバレるのを控える為だったんだ。テニス部で知ってるのは景吾と日吉君とハギだけ。3人にはバレたっていう形だったけど…香月には、ちゃんと自分から伝えたかったから」

「泉…」

「香月なら言っても大丈夫、信用出来るって思ったから」



香月の様子を窺うように、泉は恐る恐る呟き程度のボリュームでそう言った。それを受けた香月の表情からは未だに驚きが取れていないが、少しするとフ、と優しく笑った。



「教えてくれてありがとう。まぁびっくりさせてもらいましたわー。でも、私も泉のことは大事な親友だと思ってるから。仕事頑張りなよ、応援してる」

「…うん!じゃあ私榊先生に報告行ってくるね!」



香月に親友と言われたことがよっぽど嬉しかったのか、はたまた安心したのか。泉は満面の笑みを浮かべながら返事をすると、再び三つ編みをして眼鏡をかけ、そのまま階段を駆け下りていった。

残された2人は、勿論その場に立ち尽くしたままだ。



「あーびっくりしたー…どっかの誰かさんはずっと見惚れてるし」

「うるせぇ黙れ」



揶揄されたことにより跡部は毒づいた言葉を吐いたが、見惚れていたのは事実なだけにあまり説得力は無い。むしろ照れ隠しにしか見えず、そんな幼馴染の姿に香月は軽く笑った。



「元々綺麗な顔なのは知ってたけど、まさかMiuだなんてねー…。雑誌で見るより何倍も可愛いわ」

「…そうだな」

「あんなの早々いないわよ。言ってくれて嬉しかったからなんでも良いんだけど」



そう言うと香月は、先程の泉と同じく満面の笑みを浮かべた。その姿に次は跡部が軽く笑う。



「良かったな、昔から一匹狼のお前を見て俺は内心心配してたんぜ」

「んー、なんでかね、一緒にいたいと思えるような子がいなかったの。だからなんで今こうなってるのか自分でもよくわからないんだけど、とりあえず大切で堪らないみたい。まぁアンタも腐れ縁だけど」

「そうだな」



それから少しして2人は教室に戻ったが、そこには起床した芥川が1人で寂しかったのか2人に抱きつき、更に泉がいないことで暴れ回っていたとか。



***



「(幸せ者だなぁ)」



日曜日の夜。荷物の最終確認をし終え湯船に浸かってる間、泉はそんな考え事をしていた。ちなみに明日からはいよいよ合宿が始まる。

お風呂の湯をバシャン、と弾かせながら、意気込みとして両手で頬を叩く。しばらくしてお風呂から上がるとお馴染みの彼らからメールが来ていて、泉はそのことに喜びつつも返すのに一苦労したとかなんとか、そんな、合宿前夜の話。
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