初めての親友

「へぇ、合宿やるんだ」



ある日の昼下がり、泉、香月、芥川、跡部のお馴染みのメンバーで昼食をとっている時の事。香月が冒頭に放った台詞から読み取れるように、4人はテニス部が今度行う合宿について話している。



「ラグビー部はもう終わったんだったか?」

「うん、ついこの間」

「安西マネだもんねー」

「テニス部はマネとらないの?大変じゃない?」

「だから泉にやってほしいの俺はー!」

「この間の練習試合は臨時だから」



駄々をこねる芥川に苦笑する泉。あの練習試合以来、何度か芥川はこうして泉にマネージャーをやってもらうよう頼んでいるのだが、流石の彼女もそればかりは頷けない。そうしているうちに芥川も断念したのか、そのままむくれ顔で机に突っ伏した。



「監督が決めるとか言ってたけどな、よくわからねぇ」

「そうなんだーまぁ頑張って。合同合宿って言ったっけ?何処とするの?」

「青学、立海、六角、四天宝寺だ」

「ふーん、立海以外知らないや」

「どこも曲者揃いだぜ」



跡部はこの時、泉がいなくて良かった、と心底思ったが、そんな彼の心配を本人が知る由も無かった。それ以前に、自分自身には関係皆無だと思い込んでいる。

が、その思い込みは大きな間違いだった。ピンポンパンポーン、とふいに鳴り響いた校内放送を合図に、4人の視線は教室内のスピーカーに向けられる。



「3年A組朝倉泉、至急職員室まで来なさい。繰り返す──…」

「…榊監督?」

「…ていうか、私?」



そしてかかった放送の内容に、4人は思わず顔を見合わせた。予想外の人物に呼び出された事に、泉は頭上に大量の疑問符を撒き散らす。勿論他の3人も不思議顔だ。加えて、普段あまり放送を流さない榊からのいきなりの呼び出しとなれば、そうなるのも無理はない。



「ねぇ景吾、私凄い嫌な予感するんだけど」



彼女がそんな危機感を抱くのもまた、無理はない。



「…身を案ずるぜ」

「ファイト、泉」

「襲われたら飛んで帰っておいでよー!」

「ちょ、やめてよっ!」



嫌な予感をヒシヒシと感じながら、泉は仕方なしに椅子から立ち上がり、重い足取りで教室から出た。



***



「…失礼します」



恐る恐るノックをして職員室に入ると、真っ正面に榊先生が座っていた。先生は私を見つけるなりこっちだ、と言って手招きをしてきたので、とりあえずは大人しくそっちに向かう。…もう関わらないって決めてたのになぁ。



「何かご用でしょうか」

「単刀直入に言う。今度行うテニス部の合宿のマネージャーをしてくれないか」

「無理です」



先生の前に立つなり放たれた言葉に、何の迷いも無く即答する。ほら、やっぱり嫌な予感は的中した。私の返事に先生は顔を顰めたけど、正直そんな顔をされてもこればかりは受け入れられないのだ。



「理由を聞かせてくれないか」

「日程が合いません」



仕事があるから、と言ってしまえれば楽なのだろうけど、流石にそれを此処で言う事は出来ない。だから私は現時点で言える精一杯の理由を言った。嘘はついていない。



「1週間だけでも頼めないか」

「いや、物凄くキツイです、それ。だって来週ですよね?」



来週は既にラジオ番組の収録が3つ入っている上、最近では急に撮影が入ったりもするからそんな時に合宿中です、とは言えない。



「とりあえず、もう少し検討してみてくれないか」

「あの…何で私なんですか」



どれだけ言っても引き下がらない榊先生に、私は思わず強い口調でそう言ってしまった。だって何で私を選ぶのかがわからないんだもん。テニス部なんて募集すれば応募は殺到してくるでしょ、確実に。考えれば考えるほどおかしな話に、流石に眉間に皺が寄る。



「先日行った練習試合の手際の良さを見てだ。それに、朝倉は決して部員目当てではないだろう」

「…まぁ」



よく分からない返事に曖昧に頷く。部員目当て、って…マネージャーの仕事っていうあんな大変な事してる間に、皆と仲良くなるキッカケなんて出来るのかな?と逆に思う。いや、最初から仲が良いなら別だけど。にしてもその理由もおかしいよなぁ、此処の女子生徒皆が皆彼らのファンって訳でも無いだろうに。



「あの跡部が名前で呼ばせているから最初は恋人関係かと思ったが、そうでもないようだしな」

「当たり前です」



景吾の彼女になったら多分私この学園にいられなくなる。冗談抜きで。



「人望も信頼もある。マネージャーには持って来いの人材だと判断したのだが」

「…コウエイデス」



褒められるのは嬉しいけど、よくもまぁこんな面倒事を頼んでくれたものだ、と内心で毒を吐く。いや、確かにやりがいはあったけどさ、それはあくまで1回きりって割り切ってたからであって、…あぁもういいや。考えるの面倒くさい。



「とりあえず検討してみます。返事はまた後日に」

「頼んだぞ。いってよし!」



ビシッ!と向けられた指を溜息を吐きながら見て、行きより更に重くなった足取りで教室に向かう。検討って言っても、ねー…答えはもう決まってるのに。どんな理由をつけて断れば引き下がってくれるんだろう、と色々思案してみるものの、まともな答えは出なさそうだった。
 1/3 

bkm main home
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -