「泉」 「ん?」 シャーベットを入れていた容器を片付けている泉に、さっきコイツが洗濯をしている時に聞き忘れてた事を改めて聞いてみる。 誰にもバレてねぇだろうな?これはあくまでも確認の意味で、てっきりすぐに肯定が返ってくると思っていた。だがいつまで経っても泉は浮かない表情で、しまいには目まで逸らしやがって、その態度にまさかと思い更に詰め寄る。 「…ごめんなさい」 頭が痛い。 「誰にだ」 「に、仁王君」 その名前を聞いて叫ばなかった事を褒めて欲しい。そういえば、最初奴がラケットを部室に取りに行った後、異様に上機嫌だったのはまだ記憶に新しい。それにしても何故よりによって仁王、というのは泉も自覚しているのか、まるで飼い主の機嫌を窺う犬のような視線を向けて来た。そんな目で見られれば流石に何も言えなくなり、苦笑しながら頭を小突く。 「俺からもしっかり言っておく。お願いだから油断するな」 「ありがとうー…あぁー日吉君に怒られる」 「当たり前だ、不注意すぎるんだよお前は」 仕返しなのか八つ当たりなのか、胸板を叩いてきた泉の頭を次はワシャワシャと撫でる。そうすると更に叩いてくる力は強まったが勿論痛くも痒くもなく、そんな俺の余裕が鼻についたようで泉は口を尖らせた。 「おーおー、まるでカップルじゃのう」 とそこで、噂をすれば、だ。不覚にもこいつが背後に迫ってたことに気付かなかった俺、それに泉は、驚きながら後ろを振り返った。 「おい仁王、口外したらどうなるかわかってんだろーな?」 「安心しんしゃい、こんな面白い話独り占めするに決まっちょるぜよ」 俺が念を押してそう言えば、仁王は相変わらずの調子でそう言い放った。心配はいらねぇみてぇだが、本当に食えない奴だ。 「よ、よろしくね?」 「あぁ、任せんしゃい」 だが、こいつは約束を破る程腐った男ではない。学校は違えど中学からずっと見て来たのだから、それくらいはわかる。これから弱味として扱われるかもしれないが、その時は俺が守れば良い話だ。 ―――そこまで考えた所で、俺は自分の考えに疑問を抱いた。泉が転入してきてからずっと側にいて、最初はそれこそ何の興味も無かったが、色んな表情を見て行くうちに惹かれていったのは確かだ。だが、それがもう守りたいと思える程になったのかと思うと、流石に信じられないような気もする。 「インサイトの効き目は自分自身には無いのかのぉ、跡部」 揶揄する口調で言って来た仁王を無言で睨み、悟られないようにその考えを必死に掻き消す。どうしたの?と俺を見上げて聞いてくる泉に、今ばかりは何も返すことが出来なかった。 |