「有り得ない有り得ない有り得ない有り得ないーー!」



独り言にしては大きすぎる声なのは分かってるけど、それ以前に誰かこの焦りを止める方法を教えて欲しい。

どうしよう。日吉君にあれだけ念を押されたのに、早速バレてしまった。景吾もこういう時は相手に言い聞かせてくれる、って言ってくれてたけど迷惑かけちゃう事には変わりないし…何より、何でよりによって仁王君?自分の間抜けさを全力で怒鳴りつけたい。

確かに、仁王君がいなかったら今頃病院だったかもしれないけど、それとこれとでは話が別だ。直感で怪しいと思った人に唯一の弱みを握られるなんて有り得ないにも程がある。



「不注意すぎたー…」

「何が?」



そんな風に自分の不甲斐なさに全力で後悔していると、急に背後から話しかけられ大きく肩がビクついた。恐る恐る、まるで怖いものでも見るかのような目で後ろを振り向く。



「粉末は見つかった?」



その先には、物凄く穏やかな笑みを浮かべた幸村君がいた。



***



全く柳生は心配性だなぁ。不注意で切ってしまった指をぶらぶらと揺らしながら、大丈夫ですか幸村君!と酷く心配そうな顔で走り寄って来たアイツの顔を思い出して、思わず小さく噴出す。傷自体はさほど酷くないけど、そこからばい菌が入ったら困るからとこれまた柳生に念を押され、今俺は消毒の為に水道に向かっている。



「有り得ない有り得ない有り得ない有り得ないーー!」

「…ん?」



すると、水道に近付くにつれて朝倉さんのそんな叫び声が耳に入った。大人しい子だと思っていただけにそれは予想外で、まずは話しかけずに木陰から様子を見てみる。頭を抱えている彼女の姿はこう言っちゃなんだけどかなり情けなく、でも面白いからそのまま見守ってみる事にした。

けれどもそれから彼女は思い詰めたように頭を垂れていたので、少し心配になった俺はその後ろ姿にゆっくりと歩み寄った。不注意すぎた。何が?そのたった一言に朝倉さんはこれでもかというくらいのリアクションを見せてくれた。



「粉末は見つかった?」

「あ、う、うん」



とりあえず普通の質問をしてみるものの、内心はまだ驚いているのがバレバレだ。証拠にその目は忙しなく泳いでいる。



「ちょっと水道使わせてもらうね」

「どうかしたの?」

「摩擦で手切っちゃっただけだよ」

「え!消毒しないと」



でも俺が此処に来た目的を伝えればそれは消え去り、まるでさっきの柳生のように過保護な態度を見せて来た。くるくる変わる表情は面白いけれど、ここまで過剰に反応されると次は俺が驚く。



「いや、水洗いだけで大丈夫だから」

「駄目!今消毒液持ってくるから待ってて!」

「え」



そしてそう言い残すと、彼女は俺の言葉を遮って全力疾走で部室に行ってしまった。

なんていうか、彼女は見てて飽きない。弱いと思いきや強かったり、大人しいと思いきやそうでもなかったり。変な意味は無く、素直にあの子を近くで見れる氷帝が羨ましいと思った。
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