「───というやり方でいいかな?跡部」

「あぁ、構わないぜ」



泉が部室に行ってから数分後には幸村の説明も終わり、彼らは各々ラケットを取り出しウォーミングアップを始めた。その様子を見てじゃあ1試合目は、と口を開きかけた幸村を止めたのは、のろのろと彼の元にやって来た仁王だった。



「幸村すまん、ラケット部室にあるんじゃが」

「すぐ取りに行ってきて」



そうして部室に走って行った仁王を筆頭に、彼以外にもラケットを置いて来たと思われる丸井、切原、ジャッカルも共に走っていった。

いよいよ、練習試合の始まりだ。



***



「入るぜぃ」

「はーい」



部室に入ると、朝倉は脚立を使って棚の上にあるドリンクの粉末を取っとった。その普通の光景に特に反応することなく、俺達はラケットを手に取る。



「そういえばお前等雑誌に載ったんだろ?」

「あぁ、載ったッスよ!」

「マジMiu可愛かったよな!」

「や、あれはやばいッスね。半端ないッス」

「ふーん、羨ましいぜ」



そこでジャッカルが話しかけた内容に、2人は当時の事を思い出しとるのかだらしなく顔を緩ませた。あまりの締まりの無さに半分呆れつつ、ふと、本当に何の気も無く朝倉の方に視線を向ける。するとどうしたものかその顔は若干バツが悪そうで、俺が若干不審に思いながら朝倉を見つめとると、



「うおぉお!?」



ブンは急にそんな大声を上げた。只でさえ何かを意識して緊張しとった朝倉はその声に驚き、そのまま脚立から足を踏み外した。

反射神経には自信があるものの、それでも朝倉を受け止めたのは落ちる直前だった。ブンの方を見れば予想外の出来事に同じく驚いとるんか、ぽかーんとした間抜け面で俺達を見とる。



「ブン、いきなり大声出すんじゃなか」

「ワリィ、この黒いのGかと思ってビビッた…。大丈夫か?お前」

「う、うん、びっくりしたけど平気」



結局ブンが見間違えたのはただのゴミで、その事にジャッカルがアホ、と軽く頭を小突く。全くじゃ。そうして3人はバタバタと俺を置いて部室から走り去って行き(薄情じゃのう)、必然的に俺達は2人になる。

俺の腕の中からピクリとも動かない朝倉は、未だに気が動転しとるのかまさに心此処にあらずっちゅー状態じゃ。それを良い事にまじまじと朝倉の顔を見とると、そこで俺はある事に気付いた。



「お前さん、この眼鏡度はいっちょる?」



遠目で見ると結構な厚底レンズに見えたその眼鏡は、間近で見るとそうでも無い。それを不思議に思った俺はただなんとなく、ほんの出来心で朝倉から眼鏡を取り上げてみた。



「ちょっ、だめっ!」



…ただ、眼鏡を外しただけ。それだけっちゅーのに。



「…お前さん」

「か、返して!」



ようやく我に返ったんか、俺から離れた後朝倉は眼鏡を秒速で俺の手の中から取り、そのまま水をくんでくる、と言い残し部室を出て行った。

なるほど、そういう事か。3人の会話に気まずそうにしてた理由も、最初に見た時の妙な違和感も、全部繋がった。



「眼鏡と髪型だけじゃいつか全員にバレるぜよー」



もう見えない姿にからかい口調で呟けば、ふいに何とも言えん感情が込み上げてきた。テニスでいう、強い敵と会った時に感じるもんと似とる。

朝倉泉ねぇ。そう考えながらコートに戻ると、柳生は俺の顔を見て開口一番何か良い事でもありましたか?と聞いてきた。
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