翌朝、部屋に差し込む日差しに起こされ、
彼女を抱き寄せようと、手を伸ばすと、そこには布団しかなかった。

まだ気怠い頭のまま身体を起こすと
昨日、乾かしていたお風呂ポーチがなくなっていたのが見えて、
あぁ、風呂に行ったんだな、と気付いた。

「折角だし、俺も行くかァ。」

立ち上がって身体を伸ばすと、すっげェ気持ちイイ。
寮はベッドだから、久々に布団で寝た気がするけど、たまには悪くない。

開けた浴衣を直して、ぎゅっと帯を締めなおし、
新しいタオルを持って部屋を出る。


長い廊下を歩いていると、自販機コーナー前で 同世代の派手目な女に声を掛けられた。

「あれ?ヤッちゃんじゃない?」

「あ?」

「やっぱり!ヤッちゃんだ〜!元気してた?」

「誰だオメェ。」


顔をじっと見るが、思い出せない。


「もーひどい!実家お隣さんなのに。小学校も同じクラスだったし」

本当に覚えてないの?と顔を見上げてくる。

「あ、思い出したァ」


そういや、そんなヤツいたわ。俗にいう、幼馴染ってやつだな。

その後、誰とお泊り?まさか彼女?なんて突っつかれながら、
成り行きで一緒に脱衣所の入り口まで向かう。

っつーか、コイツ経由で実家に彼女と温泉旅行してたなんてバレたら面倒くせェな、
と一瞬思ったけど、まァいいか。



・・・


紬がいるかもしれないと混浴に向かうと、
俺が紬を見つけるより先に、さっきの幼馴染に見つかった。


「ヤッちゃんも混浴〜?」

「話しかけんなバカチャァン。」


しっしっと手で払うと、ごゆっくり〜と言って、幼馴染は離れていった。


ちゃぷ、と音を立てて湯に浸かると、
朝の冷たい空気と冷えた足の温度差でスゲェ熱い。

目当ての彼女をきょろきょろと探すと、
湯煙の間からうっすらと見えてきた。


「靖友…?」


「おー紬、オハヨ」


朝の明るさの中ではより鮮明に紬の艶っぽい肌が見える。
湯水に濡れた肩が日差しを受けてキラキラと光ると、
好きなヤツってスゲェ輝いてみえるんだな〜と恥ずかしいことを考えた。



「おはよ」



あれ?なんか元気ねェ?


「朝の風呂もいいよネェ」


「うん」


紬は、顎まで湯に浸かって、目を逸らす。
やっぱり、なんか様子が変だ。


「どうしたァ?二日酔いかヨ?」



「違うもん…」


「もん、て…”ハイそーです”っつってるよーなもんだろォ」


濡れた指を払ってから 紬の頬っぺたをつまんでブニっと横に引っ張ると、
もちっと伸びて変顔になる。


「ブサカワ」

いじけつつも されるがまま引っ張られている紬がかわいくて、つい意地悪をしてしまう。

「もうっ…どうせ私は可愛くないよ」

そう言うと、うるうるっと瞳が揺れたので、柄にもなく焦って手を離す。バシャ、と上がる水しぶきも気にならないくらいだ。

「なっ、どうしたってのォ?紬チャァン」



「…さっきの綺麗な女の子、ダレ?ナンパされたの?」

「あー、アレは地元の近所の同級生。さっき偶然会った」


そういうと、ふーん、と疑いの眼を向けてくる。
やきもちやいてんのネ。カワイ。


「仲、良さそうだったね…元カノだったりして」

「ンなワケねェだろォ」

そう言って、手で作った水鉄砲を掛けてやる。
幼馴染なんて、今の今まで忘れていたし、最後に会ったのは多分 小6の卒業式だ。


すると紬は、
「もーっ!靖友のバァカ!」
と怒りながら、バシャバシャとお湯を掛けてくる。

「んなッそれァ反則でしょーヨ!」

紬があんまり必死に暴れるものだから防戦一方になり、
何だか楽しくなっちまって、笑えてくる。
こういう時、無邪気に遊べる相手が恋人で幸せだなァなんて、密かに思っている。



「あっ!ヤッちゃんがバカップルみたいなことしてる〜」

さっきの幼馴染の声が 紬の後ろの女風呂側からまた聞こえてきた。

「そうだなっ仲良しだなっ 俺たちも負けていられないぞ!」

その直後、俺の背後の男風呂側から、幼馴染の声に応える 野太い声が聞こえてきた。
振り返ると、筋肉粒々な男がじゃぶじゃぶと近づいてくる。
身体も声もデケェ。そんでもって黒い。

すぐ隣で 女風呂と男風呂の間の柵から手を伸ばしあってがっちり繋ぎ、
「ダーリン」「ハニー」とイチャイチャし出した幼馴染とその彼氏に、俺らは唖然とした。


紬は、こちらを見て、引き攣った笑顔でこう言った。

「ごめん…勘違いだったね…。靖友が元カレとか、ありえないね」

「わかりゃァ、イイヨ。」

ダァレがガリガリ色白男だァ!とか言ってやりたいところだったが、
まァ、折角の記念日旅行。ケンカにならずに済んで良かったと胸をなでおろす。


・・・



風呂から上がって身支度を整えると、間もなくチェックアウトの時間になった。
荷物をまとめ、忘れ物を確認して、一日世話ンなった部屋を出る。


「もう終わっちゃうんだね、寂しいな」

「わかるケドよォ。シンミリすんな」

旅の始まりはあんなに明るい気持ちでいられるのに、
旅の終わりは、なんでこんなに切ないんだろう。

しゅんと肩を落とす紬の頭にポンと手を乗っけると、

「うん、家に帰るまでが 記念日旅行ですよねっ」

と笑顔を向けたから、「おー。お土産見て帰ろーぜ」と紬のカバンを取って 手を引いた。


「ふふ」

「なーにィ?」

「靖友のそーゆーとこ、好きだよ」

「なっ 突然ンなこと言うなよ!」

「えーじゃぁいつなら言っていいの?」

「…ウルセ!」


真っすぐに気持ちをぶつけられると、なんかこそばゆくなってしまって、パッと顔を背けた。


ケド、これからも、その真っすぐさが、俺に向かってくれたらと願う。



「東堂にも何か買って行こっか!」

「ソダネ。」



東堂には、紬ピックアップの熱海のゆるキャラがプリントされたお菓子を買った。


旅館の前で、「宜しければ」と女将が写真を撮ってくれた。

俺ァ自分たちで撮るのは大分抵抗はなくなったけど、第三者に撮られンのは まだ照れ臭かった。
「是非!」と瞳を輝かせる紬に、断る気は失せちまったケド。


・・・


帰りの電車の中で、暫く今回の旅行で撮った写真を見る。

ほとんどが2人の顔のアップで、どこでも撮れんじゃねェ?って写真まであったが、
どれも紬が嬉しそォに笑ってるから、連れてきた甲斐があったと実感する。


神奈川に入る頃には、紬はぐっすり寝ちまってて、俺に身体を預けてる。
無防備な寝顔に、俺の頬も緩んじまう。




「…また、来ようネ。」


そっと頬に手を添えて、口づけた。





E N D 





| ≫

Dream TOP
 
 
 
 
 
 

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -