1年生の春、進学した高校で、自由奔放な男子と隣の席になった。

HRは出席する日の方が少ない不思議な人で、

「一時間目、当たるよ?」

「えーっ。俺なーんも準備してないや〜」

ピンチな俺、が自身にとって他人事であるような、にへら、とした笑顔でそう答える。

「仕方ないなぁ。ここ、多分範囲よ」

「ありがとう〜 さすが紬ちゃん」

こんな風に、ついつい世話をやいてしまうので、必然的に仲良くなっていった。



・・・




1年生の夏、その彼に私は、自転車置き場の裏で告白をされた。

「ね、紬ちゃん。俺と、付き合ってよ」

そう言って、物理的な距離を詰めてきたところで、私たちの距離は埋まらない。

「ごめん、今 誰かと付き合うとか考えられないから」

だけど、私も真波のこと、好きだったんだよ。




・・・




1年生の秋、昨年からの念願だった留学が決まった。

そこから出発までの1か月は準備で慌ただしく、クラスメイトに予告することなく、私は旅立った。

向こうに行ってから何度か真波からメールが届いて、隣の席にいた時にはそっちからメールなんてくれたことほとんどなかったのにね、なんて思いつつ、期待させないよう素っ気なく返した。

胸は傷んだけど、離れている私には、何もできることがないから。

メールの内容は「練習頑張ってるよ〜 今月は遅刻3回だけだった\( '')/」だとか、「引退した先輩の大学進学が決まったよ〜」だとか、日常のできごとが書かれていて、私は「それって多いの少ないの?」「それはおめでとう」と。

あっちはあっちで、目標に向かって走り続けているんだな、という気持ちが、私のさみしさを掻き消して、強くしてくれたのも確かだった。

だけど、留学も終わりに差し掛かると、論文やテストに追われるようになり、返信できないままのメールが少しずつ溜まっていった。



・・・





2年生の秋、1年のカナダ留学から帰国した。

時差ぼけも解消された帰国翌々日、放課後に母と学校に来た。

うちの学校は私立ということもあって、向こうでの単位を認定し、一部レポートの提出で、2年生の後期から復学させてもらえた。


「じゃぁ、お母さん先に帰ってるから。紬も早く帰って来なさいよ」

「わかってまーす」


学校への復学の手続きと、担任の先生への挨拶を終えた私は、彼の様子を伺いに 自転車部の部室に足を運んでみる。

ほんのちょっと、姿を見るだけ。



「おいっ 不思議ちゃんはどこ行ったよ?」

「真波なら、走りに出ましたよ」

「ったく、まーた昼寝かぁ?あいつは本当に仕様がねぇな」

黒田さんという先輩が、溜息混じりに話しているのを、悪いと思いつつ盗み聞きして、
私はバスに乗り、彼がいつも休憩している場所へと急いだ。


彼が練習後に一人で走りに行く場所と言えば、思い当たる場所がある。








慣れない場所で降車ボタンを押す。
久しぶりに会えるかもしれない期待と、
連絡も途切れ途切れだったことに対する罪悪感とで、
私の指は少し震えていた。


バス停を下りて少し歩くと、見覚えのある景色に辿り着いた。


河川敷に出ると、遠くに横に倒されたロードバイクが見えて、

やっぱりいた、と胸がどきどきと音を立てる。


一歩進む度に、彼との距離が短くなっていく。

あと100メートルほどの所で、私は足を止めた。


確かに横になっているのは真波だが、

横に誰かいる。



夕日が反射して、よく見えないけど、

私と同じ制服であることは間違いなかった。



先ほどとは違う胸の動悸が激しくなっていく。

しかし、私は歩みを止めることはできなかった。



50メートルほどの距離に近づき、真波だと確信を持てた瞬間、

隣にいた女の子が 横たわる真波に顔を近づけて、



影が重なった。




「っ‥・」




私は、カバンから落ちたものにも気付かずに、

バス停へと走り出していた。



帰国して3日で、好きな人と誰かが口づける場面に遭遇するなんて、

想像もしていなかった。


  

  
  


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