― 抱きしめたい ―

Base Ball Bear





春風の中、君は花のようだ

広がる髪もスカートも 抱きしめたい


くちびるを湿らせるくらいのことが

この胸締めつけるよ 抱きしめたい





ヘッドフォンから流れてくる、

切なくも温かいメロディに、

恋する相手への気持ちを書いた歌詞に、

強い共感を覚えた昨晩。



俺の頭の中でも、今、その気持ちが流れている。





少し前を歩く俺の恋人は、

楽しそうに時々こちらを振り返りながら、

学校までの道のりを歩く。



可愛くて、愛しくて、今すぐ抱きしめたくなる衝動に駆られるが、ここは通学路だ。

道行く人は疎らだが、俺たちと同じ制服に身を包んでいる。



通学路に面したこの公園、去年も桜が咲くころに二人で来て、

池の横にある少し小さな桜の木が二本だけ咲いている場所を見つけて、

ビニールシートを敷いて並んで座って、桜を見たよな。


作ってくれた弁当食って、

大きくはないシートに二人で横になって、

「意外と芝生堅いね」なんて笑ってた。




俺がそのまま手をつなぐと、

「おっ、珍しいねぇ〜」

なんて茶化してくるから、パッと離した。

「ごめんって」

と言って指を絡めてくる。

あん時も別に怒っちゃいなかったが、反応が楽しくて、
つい不貞腐れたふりしてた。



その手を引っ張って、少し強引に唇を重ね、べーと舌を出してやった。










その時からの1年間は本当にあっと言う間で、


今日、俺たちは箱根学園を、卒業する。




「もー、黒田!何してるの?早くしないと卒業式 遅れちゃうよ!」


そういって、立ち止まっていた俺のところまで、戻ってくる。

紬は俺の手をひいて、通学路をぐんぐん進んで行った。



風が彼女のスカートと髪を揺らして、ふわりと桜の香りがした。




― 突然でも構わないかい?

抱きしめたい。 ―
 


引いてくれていた手をぐっと引き寄せ、紬を抱きしめた。

「ずっと一緒にいてくれ。卒業しても…」


「何?メランコリックなハグ?」

と言い恥ずかしそうにしながら、俺の背中を手でトントンと叩いた。


「いいや。

 これからもずーーーっとよろしくな、のハグ。」


と、少ないとは言え人の目もあるのだから、
いい加減恥ずかしいことしちまった、とパっと身体を解放して笑った。


「当たり前でしょ!」


また、彼女は屈託のない笑顔で笑った。

俺は彼女の笑顔が大好きだ。つられて、俺も笑う。


「私、黒田の笑顔が大好きだよ!」

なんて不意打ちで囁かれたから、また抱きしめたくなっちまう。


けど、流石に今度こそ怒られそうだから、後にしておく。






クラスメイト、仲間、紬。


皆それぞれの道に別れていくけど、

俺はこの、自転車に掛けた3年間を、彼女と過ごした3年間を、忘れない。






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