意識しちゃってください

微妙な学パロ




「もーいつまで怒っとんの」
「……」
「ローヴィー」
「怒ってないわよバカアントーニョ!」
「怒ってるやん」

そう言うと、口を尖らせてふいとそっぽを向く。都合悪い事があるといつもそうする。

「ごめんて」
「全くよ、私の意見聞かないで勝手に決めるなんて」

季節の変わり目、鬱陶しいくらいベタつく蒸し暑い夏から季節は移り、この薄い生地で出来た半袖の制服では少し鳥肌が立つ頃。自分達が通う学校は、文化祭の準備で賑やかさを増していた。
アントーニョとロヴィーナはクラスメイトであり、隣人であり、そして幼なじみだ。そして件の文化祭でのクラスの出し物で、白雪姫の劇をすることになった。王子役にはアントーニョが立候補、華の主役の白雪姫は、アントーニョによりほぼ強制的にロヴィーナに決まったのだ。
そして話は冒頭に至る。



「私、演技なんて出来ない」

嘘じゃない、本当。人前に出ることは昔から大の苦手だ。やむを得なく人前に出た時も、あがってしまって何も出来なかった。目を瞑りたくなる失敗なんて、この両手の指、いや両足の指をたしたってまだ足りないくらいある。
そんな風に、また失敗して、皆に迷惑をかけちゃうのは目に見えているから、主役なんて嫌だったのに。

「私があがり症なの知ってる癖に、なんで私を主役にしたのよ」
「やって、ロヴィ以外の女の子と演技とかやりにくいやん」
「私を巻き込まないで!じゃあなんで王子に立候補したのよ…」
「王子やりたかってん」
「もう!我が儘!」

昔からそう。アントーニョは天然とか鈍感とかよく言われるけど、本当はそんな可愛いもんじゃなくて、凄く我が儘だし独占欲強いし。多分その裏の性格を見せているのは幼なじみの私だけなんだろうけど。それってなんだか嫌なような、嬉しいような、複雑な感じだ。

「せやったら特訓すればええやん」
「えぇ?どこで」
「俺んち!」

彼の家と言っても隣なのだが。昔からよく出入りを繰り返してきていたから、この年齢になっても彼の家に入るのは抵抗がない。

「じゃあ責任とって教えなさいよ」
「任しとき!」

小学生の時は主役やったこともあるから自信はあるで、とにっこり笑いながら、彼はロヴィーナの手を引いて歩きだす。その時同じクラスだったから知ってるよと、内心秘かに思って、手から伝わる彼の体温を感じながらついていった。


久しぶりに入った彼の家は、漂う香りとか家具の位置とか、昔から変わっていなかった。少し違う所をあげるとすれば、私物や服のデザインや大きさが変わったくらい。通された彼の私室も、少しは変わった所もあるが、昔の面影を多く残していた。

「ほな台本読み合わせてみよか。俺王子以外のとこもやるさかい」

彼のその言葉を合図に始まった特訓。最初は慣れない言葉遣いに戸惑い、恥ずかしさでぎこちなかったものの、アントーニョのアドバイスと雰囲気がしっかりカバーしてくれた。少し身振り手振りを付けてみたり、表情を変えてみたり、次第に役に溶け込みなりきっていることが自分でも分かる。ちょっとずつ、ちょっとずつだが、白雪姫に近づいている気がした。

台本の中の物語は終盤を迎える。誰もが憧れ、印象に残る王子様の口付けでの目覚めの時。
舞台で本当にキスする訳にもいかないので、顔を近付けるだけの演技でいいと指示を受けているものの、顔を近付けるだけでも相当恥ずかしいと思う。

「ロヴィーナすごいなぁ、最初とは比べもんにならへんくらい上手くなったやん」
「…うん」
「ほな、最後のとこぱーっとやって早よ終わらせよか」

なんだか凄く緊張してきた。ぱーっと終わらせるどころか近付けるまでが大変なのに!この鈍感男はそれをまるで呼吸するかのように簡単にさらっと言いのける。まさか白雪姫のラストを知らないなんてことはないだろうかと、疑いの目を向けてしまう。

「じゃあロヴィーナ、ベッドに横になって」
「えっ…な、何で!?」
「何でって…ラストやで?雰囲気出したいやんか!役作りの為やで」

ここは彼の家であって彼の部屋でもあって、そこで親族でも彼女でも何でもない女を、自分が普段使っているベッドに易々横にさせるのはどうかと思った。いくら幼なじみでも、ここまでするのはちょっと気が引ける。

「や、そこまでしなくても…」
「ええからええから」

頑なに拒むロヴィーナを、アントーニョはひょいと軽々抱き上げてベッドに寝せた。昔は目線が一緒だったのに、いつの間にか抱き上げられてしまう程身長差があることに驚きつつも、必死に抵抗した。

「ちょ……ちょっと!」
「ロヴィーナの好きなチュロスとチョコラーテ作ってあんで。早よ終わらせて一緒に食べようや」

決してその言葉に折れた訳ではない。けれど、これ以上何を言ってもきっと退いてはくれないと分かったから、素直に従うことにした。
両手を彼の肩から離し、胸の下辺りに指を組んで瞳を閉じる。絵本の挿し絵で見た、白雪姫が眠っている体勢だ。

「ええ子」

いつもより少し低いような声が小さく耳に届いた後、アントーニョは台本にある決められた台詞を話し始める。

『あぁ、なんて美しい姫…私が眠りからお救いしましょう』

頭の両脇に手が置かれて、ベッドのスプリングがぎし、と小さく悲鳴をあげた。長すぎる一瞬が終わるのを、ロヴィーナの目蓋はぴくぴく動いて待っていた。
ふいにアントーニョの髪の毛が額に当たって、かなり顔が近いことが分かった。彼の息が顔にかかり、心臓が高鳴るのも構わず、演技の為目は開けないと決めていた。
それなのに、突然あるはずのない弾力が唇に押しあてられて、ロヴィーナは演技を中断した。
狼狽することも忘れてた。まるで最初から予測できていたような、期待していたような。

「なっ……アント…!?」
「あかんやん、そない素直に従ったりしたら」
「え……」
「幼なじみやからって、油断しすぎとちゃうの?」

いつもと違う、憂えを秘めた瞳にかっちりと捕らえられて、目を反らせなくなった。でもどうしてそんなに眉を下げているのか分からない。

「……あかんわー…幼なじみやめたいわ…」
「何で…」
「ロヴィーナがいけないんやで、俺の事見てくれへんから」

ぽすんと頭の横のシーツに彼は顔を埋めて、震える声で言い続けた。

「俺の事、もっと男として見たって…」
「見てるわよ」
「へ?」

見てたよ、ずっと。

「じゃなきゃ、こんなになってない」

ロヴィーナが自身の頬をアントーニョに触れさせて熱を伝えると、彼は驚いたように目を丸く大きく開く。




つまりは





そういうことで。







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ハロー、ハニー様に提出させて頂きました!
素敵な企画に参加させて頂きありがとうございます!

お題サイト様:確かに恋だった


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