極限の出逢い





「おい聞いたかよ、近くの広場で美少女が強盗に人質にされた事件!」
「あーあれね、ニュースにも新聞にも載ってるよね」

講義が終わり、中学から一緒の友人達と大学のカフェで一息ついていた、のどかな昼過ぎ。友人の1人、ギルベルトが切り出したその話題に、のどかな時間はぴしりと閉ざされてしまった。

「何でも、強盗を倒して美少女を救ったのは大学生位の男らしいよ。名前も身分も明かさずに立ち去ったんだって」
「何だそれ!アルフレッドんちのアニメによくいるヒーローみたいな奴だな」
「そんな美少女ならお兄さん一回見てみたいなぁ。ねぇアントーニョ?」

さすがは情報網のフランシスだけあって、詳しい。だが本当の事を何も知らない彼は、アントーニョに話を振ってくる。

「俺や」
「へ?」

2人が同時にすっとんきょうな声を出す。

「その子助けたん、俺やで」

一瞬、時が止まったような感覚に襲われた。2人は瞬きも忘れる程驚いている。開いた口が塞がらないとはまさにこの事だ。この空気を割って話し始めたのはギルベルトだ。

「…え、まじ?」
「ほんまほんま」
「強盗倒したの?」

せやで、と言おうとして口を開いたとき、ケータイが振動しだした。

「あ、ちょっとごめんな」

電話を出て相手の話を聞き、立ち上がる。

「え、ちょっとどこ行くの!」

パチリとケータイを閉じて、振り向いてアントーニョは少しばかり顔を赤らめてはにかんで言った。

「美少女んとこや」










やはり門の所に立っていれば、じろじろ見られる事は避けられないらしく、体を縮こませて彼を待った。早く来ないかなと願ったが、何しろこんなに広い大学だ、短くても10分以上はかかるだろう。そう思った矢先、自分の名前を呼ぶ声が聞こえて、俯いていた顔をばっとあげて声の主を探した。

「ロヴィーナ!」

時計を見れば、電話を切ってからまだ4分しか経っていない。彼は5階のカフェにいると電話で言っていたのに、いくら何でも早すぎではないか。

「アントーニョ、息弾んでるよ。そんなに急がなくても良かったのに」
「ロヴィーナに早よ会いたくて、ちょっと走ってきてもうた」
「ちょっとじゃないだろー!」

突然会話に別の声が挟まり、驚いて声の方へ視線を運ぶと、アントーニョの後ろから2人の男が走って来るのが見えた。アントーニョに追い付くなり、その場に手と膝をついて肩を激しく上下させた。

「はぁっ…お前速すぎっ…!」
「堪忍なぁ」
「もー、お兄さんに汗かかせないでよねー…って、あれ君は」

銀髪の男よりは幾分呼吸の整った長髪の男が、ロヴィーナに向かって話し掛ける。

「君が例の強盗の?」
「え…あ、はい」
「そっか、大変だったね。でも安心して、これからはお兄さんがこの身を呈して守ってあげるから!」
「へっ!?」

がしりと両手をいきなり捕まれ、すっとんきょうな声が出る。すると今まで息を整えていた銀髪の男もロヴィーナを見て、

「うおっ!ちょー可愛いじゃねーか!」

と立ち上がっては、2人してわらわらと寄ってくる。
あれ以来、男が怖くて堪らなくなった。怖くて、声も出ない、震えていることしかできない。そんな自分の存在が、とても小さく弱いと思った。それなのに、彼はこんな私をまた救い出してくれる。

「ロヴィーナに触らんといて!この子今男性恐怖症なんやからほら、離れて離れて」
「あ、そうなの?」

彼がそう言えば、ごめんねと謝って2人は素直に離れていく。第一印象は怖いと思ったものの、根は優しそうな人達だ。

「今は時間かかるかもしれへんけど、ええ奴らやから、男性恐怖症治ったら仲良くしたって」

彼がロヴィーナの肩に手をぽんと置いて言う。あの恐怖から救ってくれた手だからか、男は怖いけどアントーニョだけは平気なのだ。その言葉にこくりと頷くと、アントーニョは肩の手をそのまま滑らせてロヴィーナの手のひらへ持っていく。

「ほな、そういう訳で」

優しく繋がれた手を引っ張られて、足が一歩踏み出された。

「俺らこのままデート行って来るわー!」
「えぇ!?」

3人の声が重なって響く。

「え、って何でロヴィーナも驚いてんの?」
「で、デートって…!私達そういう関係だったの!?」
「俺はそう思ててんけど…ロヴィーナはちゃうの?」

その悲しそうに細めた目からちらついて見えるペリドットと下がった眉が、なんだか真剣でこちらがまいってしまいそうになった。心なしか赤くなった頬を隠したくて俯いた。

「極限の状況で出会った男女はうまくいかないってよくいうけど…いいの?」
「そんなこと!そんなセオリー、俺らが変えたればええやん!ロヴィーナと俺が、うまくいかないはずあらへん」

彼は大きくそのペリドットを輝かせて、自信満々に言い放った。一体何処からそんな自信がわいてくるのかなんて分からないが、そんな彼を見ていたら、そんな保証のないセオリーなんかどうでもよくなった。

「…よろしくお願いします…」

こつん、と彼の胸板に額を預けて、小さく小さく言った。恥ずかしくて、それが限界。そしたら彼が、せっかく隠した顔を持ち上げ髪を左右に掻き寄せて、ロヴィーナの紅潮した頬を露にする。

「こちらこそ」

顔がゆっくり降りてきて、柔らかい感触に、無意識に彼の服の裾を握り締めていた。



















「…なぁ、俺達空気扱いじゃ…」
「ギル、今は黙ってるのがマナーだよ」






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