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それは朝から始まった。

「…あれ?」

いつも身につけている三角布がない。毎日同じ場所にしまっているし、今まで無くなるなんてこともなかったのに。不可解だと思いながらも予備の三角布を取り出して身につけた。

そこまではまだ良かったのだ。まだだ。

ごみ捨てをする時見つけてしまったのだ、自分の三角布を。
白かったはずなのに、所々傷み土や泥で汚れ、変わり果てた姿の三角布は、助けを求めるようにごみ箱の底で泣いていた。誤ってごみ箱に入ったんじゃない、明らかに意図的だった。
ちくりと痛んだ心を抑えて、汚れきったそれを拾った。鼻を突くような悪臭を放っていた。

エスカレートしていくこれに気付くのに時間はかからなかった。

掃除の時間のこと。私はいつも通り回廊に囲まれた中庭の手入れをしていた。気付くと上からクスクスと小さな笑い声が聞こえてきて、上を見上げた途端、全身を叩きつけるように水が落ちてきた。
何が起こったのか分からなかった。しばらくして、上からの笑い声が大きくなって、漸く状況を飲み込めた。
私は、2階の窓から彼女達に水を掛けられたのだと。ただの水ではない、鼻の奥につんとくる悪臭、小さなゴミが浮かぶ薄く黒ずんだ水。服にじっとり染み込み、顎や髪から滴るこれは、雑巾を絞ったバケツの水だとすぐに分かった。
しかも私はこの臭いを知っている。三角布の臭いと同じだった。彼女らは三角布を雑巾にでもして使ったのか、それならあの汚れ具合なのも納得できる。

頭上の笑い声は次第に大きくなり、まるで言葉ではない罵声を浴びているような気分だった。
私は彼女らに何かしたのか。
どうして何の前触れもなくこんな事をするのか。
コップの入った水が溢れるみたいに急に涙がこぼれてきて、転げいるように屋内に走った。
滴る水で廊下を汚さないように、濡れた部分を掻き集めながら使用人室に向かい、自分のベッドに突っ伏して声を殺して泣いた。

とても驚いた。
いきなり上から水が落とし、それを被った私を嘲笑う彼女達。彼女達の中には今まで仲良くしていた子がいて、そして、元々アントーニョ王子に菓子を届ける係の子も。
深く理解した。
これがいじめの始まり。










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