君を包み込む両手が欲しい

猫西×南伊




空気がだんだん冷たくなってくると、今までたくさんいた虫達や小動物達がぱったりと姿を見せなくなってしまった。

生きるための餌として食してきたそれらを失って1ヶ月程が経つ。空腹と疲労で、まるで地球は自分を軸に回っているのではないかと思う程に目の前がぐらぐらと歪む。
俺はこのまま飢え死にするんやろな、野良猫の運命ってのは残酷やんなぁ。
最後に頭に浮かんだのはそんな言葉だった気がする。その後は天地がひっくり返って…それから先は覚えていない。




「おい、大丈夫か?」

上から降ってきた声で意識が浮上した。体を軽く捻ると、今までとは違う感触にはっと目が覚めた。
包み込まれる暖かい空気に、下にはコンクリートではなくふかふかのカーペット。明らかに人間の家の中だった。全身を使って飛び起きると、頭上にいた人間が手を伸ばしてきた。

「そう怖がんなよ、何もしねーし」

…別に怖がってなんかないんやけどなぁ、そう見えてんのかなぁ、なんて心密かに思ったが、彼が撫でてくれる手がふんわりと優しかったので、そんな事はどうでもよくなった。気持ち良くてついごろごろと喉を鳴らしてしまう。

「はは、気持ち良いのか?」

笑った顔が凄く綺麗だった。見とれて、喉を鳴らすのを忘れてしまう程に。

その時、玄関から人が入ってきた。

「やっほー兄ちゃん!遊びに来たよー」

その人はこの人の弟らしい。彼が来て立ち上がったことで、この人の手が頭から離れてしまって、少しもの寂しかった。

「なんだ、フェリシアーノか…ってう゛ぉああああ!!ジャガイモ野郎がなんでうちにっ!!!」

突然彼が叫んだので驚き、彼の視線を辿っていくと、人一倍大きな体をしたゴツイ怖そうな人がいた。彼はこのでかい人を怖がっているように見えた。

「ジャガイモ野郎連れてくんなって言っただろうがこのやろー!!」

「だって…」

「いいから今すぐ出ていけ!」

そのあとは弟を説得して無理矢理2人とも家から出されてしまった。その一部始終を見ていた自分だが、その出来事は自分が猫であることを痛快させた。

自分を助けてくれた彼。彼の嫌うものから救ってやりたい。恩返ししたい。
けれども自分は無力なただの子汚い野良猫だ。両手いっぱい広げても、包み込めない小さな体。

夜、彼がベッドに招き入れてくれた。彼の隣は不思議と暖かくて、心が綻んだ。それと同時に、神に祈った。

―どうか、この俺に、この人を―



















朝の直射日光が目に染みて、目がきゅうと縮こまる感覚に意識が浮上した。
…いい香り…暖かい
まだ眠くてふわふわとしているが、もっと近くにと腕の中の暖かいそれを優しく引き寄せた。

「……ん…」

とたんに腕の中のそれが動き出す。彼の肩は昨日見ていたものよりずっと細く感じた。顔が近い。綺麗な顔は驚愕していても健全。

「…え……誰」

「何言うてんの、昨日助けてくれはったやん。もう忘れたん?」

「……は……?え……?」

そりゃ混乱もするだろう。彼は目を泳がせ暫く考えた後、あ、と小さく思い出したように呟いた。

「お前……………猫?」

俺は目を輝かせて大きく頷いた。嬉しくて振る尾はもうないが、代わりにこの生えた2本の腕で力強く彼を抱き締めた。

「守ったるからな」

すりすりと額を擦りつけると、彼はくすぐったそうにその身をよじった。俺が何のことを言っているのかはよく理解してはなさそうだったが、別にいい。

この両手で彼を包み込むことが出来たのだから。





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