温度変化





アルフレッドが小さい頃は、よく一緒に眠ったものだ。
星空が綺麗な日も、雨と雷が酷い日も、雪がちらつく日も。
この両腕の中にすっぽりと収まるひ弱なこの体を抱きしめて、こいつは俺がずっと守って生きていくのだと決意を固めた。2人で眠った夜は、例え真冬であっても暖かく感じた。
日に日に少しずつ大きくなってゆく体をこの腕で感じながらおとぎ話を聞かせて、アルフレッドの小さな寝息を心密かに楽しんだ。

久しぶりにアルフレッドに会ったとき、急に成長していて驚いた事があった。こんなに急に大きくなるなんて予想していなくてびっくりしたが、大切な弟の成長を心から喜んだ。大きくなったと言っても、心はまだ大人になりきれていなく、夜は恥ずかしがりながらも一緒に眠ってくれた。

一緒に眠ってくれなくなった時の事は、正直あまり覚えていない。否、覚えているのだが思い出したくないだけだ。嫌な思い出には無意識に蓋をして、辛いことから逃げ出そうとする。情けない。思春期または反抗期なんだと、暫くしたらまた一緒に寝てくれるのだと信じて、その日まで辛抱強く待ち続けた。

たが、どうやら俺の願望は粉々に砕け散ってしまったらしい。アルフレッドが、あの小さかったアルフレッドが銃を俺に向けたのだ。手塩にかけて育ててやったこの俺に!見返りなんて最初から期待していなかった。だがまさか立ち向かってくるなんて、頭の片隅にもそんなことは予想していなかったのだ。
傷が滲む己の体をいくら揺すっても、一人きりのベッドでは熱は生まれなかった。こんな冷たい夜は初めてだった。夏だってがたがたと震える毎日。慣れることは無く、眠れない日も多々あり、目の下に黒いものが濃く浮かんでいた。
隣には小さな可愛らしいアルフレッドがいて、暖かさで満ちたかつてのベッドが懐かしい。半分空いたスペースに手を伸ばしたが、この冷えきった手に触れるものは、この手よりさらに冷たいシーツだけだった。

俺を押し切って独立してしまったアルフレッドも、今は一人きりで寝ているのだろう。でも俺ほど寂しがっているはずない。あいつは強いんだ。自分で決めて独立したなら、もう泣いてはいけないよ。届かぬ言葉を心の内で殺して、今までにない寒い夜を越えた。



俺の夜に暖かさが戻ってきたのは、随分経ってから。今隣には、俺よりも大きく成長したアルフレッドがいて、かつて俺が抱き締めて眠っていたのに、今では俺が抱き締められている。滑稽だろう。別にいいんだ、そんな事は。幸せなんだから。
隣の寝顔は昔から変わっていない。母性本能は今では恋心へと化し、この上ない幸せと暖かさ。
淡い恋は最高とは言えないがそれなりに良い形で実り、全てはこの腕の中。幸せな涙は甘いことを、俺はこの時初めて知ったのだ。







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -