100年後の夢に





「それ、似合ってないよ」

「そうですか?シャルル様は勇ましいと褒めて下さったのに」

周囲から愛の国とも言われる自分が、女性に対してこんな事は言いたくないのだが。
19歳にしてはまだ幼さの面影を秘める、可愛いというよりは綺麗な顔だちに、他の男達と比べると一際小さくて細い体。いくらその体に合わせた特注品でも、女の子に鎧と剣。
…うん、実に不似合いだ。


「ね、やっぱり行くの止めたら?」

「何を言うんです。私以外に、誰が貴方を守るのですか。せっかく軍旗も作って頂きましたし…」

目を細めて、彼女は白い軍旗が括り付けられている棒を撫でる。
軍旗には、キリストとマリアの名前が書かれていた。文字の両脇には天使が飛んでいる。
優雅かつ勇ましさを兼ねていて、ジャンヌが掲げるとよく映える。この旗を作った人の感性は相当優れているなと感心した。

「剣より旗の方が、40倍も好き」

…なんで40?疑問に思ったが問わなかった。あまりにも幸せそうな顔で微笑んでいて、尋ねたら彼女の幸せを害してしまいそうだったから。
気を紛らわして、彼女にこう聞いてみた。

「じゃあ俺のことは?」

彼女は一緒驚いたようにその両目を開いたが、すぐに可愛らしい微笑みを浮かべて答えた。

「フランシス様は、好きではないです」

なんと。なんだかふらふらしてきて今に倒れる勢いだった。
それ程ショックだったのだ。知らぬうちに、俺はこんなにも彼女が好きだったらしい。その分、彼女の言葉は心に重くのしかかる。

「好きではありません、愛しています。」

彼女のこの言葉がなかったら、俺は本気で倒れてたんじゃないかな。ふんわりと笑って恥じることなく愛していると言うとは。さすが、愛の国フランスに生まれただけある。

「じゃあアーサーのことは?」

愛しているなんて言われたら、今度こそ死んでしまう程のショックを受けるだろうと恐れながらも尋ねる俺もどうかと思う。
彼女はアーサーの家の兵隊に大好きな姉を殺されているし、嫌いもしくは大嫌いと言うことは手に取るように承知していたのに、彼女の口から飛び出すのは、とんでもない言葉ばかりでいつも驚かされる。

「私、アーサーさん好きですよ。」

「え!?」

「私、前から思い描いていた夢があるんです。いつか、3人でテーブルを囲んで、お茶をするんです。アーサーさんの淹れた紅茶に、フランシスさんの作ったお菓子。笑いあって、お話しをたくさんして…。とても素敵な事だと思いませんか?」

目を閉じて、彼女の語る世界を脳内に浮かべてみる。あぁ、いいね。殺気立ちすぎて疲れる毎日だから余計そう思った。そうなれたら幸せだろうなぁ。

「……いつか、ね」

眉をだらしなく下げて、苦笑いで返答したら、彼女はまた微笑んだ。















誰も予想してなかったんだ。

100年も争うことになるなんて

彼女、ジャンヌが死んでしまうなんて

なぁ神様
いるんなら彼女を死なせるなよ
痔になんかなってんじゃねえよ!


彼女の夢が叶うのは、一体何年後の話になるだろう。
せめて、ジャンヌが生きているうちに出来たら良かったのに。
どんなに悔恨したって、彼女が戻ってくる術なんていくら捜し回ってももなく。
誰も知らない彼女の夢を、今度は俺が追いかけ始めることになる。




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -