虚像の涙

白→西←南伊♀





「今日、俺の幼なじみが転校してくんねん」

日常的な登校中、非日常は何の前触れもなく突然やってきた。

「ベルって言うんやけど、かわえくて元気な女の子やで!ロヴィーナも仲良くしたってな!」

「…うん」

別に私はアントーニョの彼女でもなんでもなくて、ただのクラスメイトで家が隣なだけだから、彼がその子を可愛いと言ったことに悲しむ権利なんてない。けれど、どうしようもなく胸が痛むのだ。
幼なじみという、私にはなりたくてもなれっこない、その輝かしい名前がひどく羨ましかった。
しかもなぜそれを今朝言う?なぜそれを昨日言わなかった?昨日言ってくれれば、もう少し心に余裕が持てたかもしれないのに。
その話を聞いて学校になんか行きたくなくなったが、もはや学校は目の前で、今更引き戻れなかった。



「初めましてロヴィーナ!うちの事はベルって呼んだってな!」

「…うん、よろしく」

クラスで彼女の紹介がされた後、改めて自己紹介をした。アントーニョとよく似た言葉を話す彼女と握手を交わしたけれど、会ったその瞬間に分かってしまった。
この子も、彼の事が好きなんだと。彼を見る目が、私と一緒だったから。

学校での日中、ロヴィーナは楽しそうに話す2人を極力避けた。転校してきたばかりで親しい人が少ないから、アントーニョの近くから離れないことは仕方がないことなのに、それが羨ましいのと同時に憎かった。昨日まで、アントーニョの近くには私がいたのに、と心の中で文句を次々と呟いた。
自分の気持ちも言えない、そのくせ嫉妬心に狂ってる自分が酷く醜いと思った。
彼は知らない。私がこんなに嫌な女だってこと。





「どうしたんやろロヴィーナ。今日は1人で先に帰るやなんて…」
眉を下げて、アントーニョはパチンとメールの画面を表示していた携帯電話を閉じる。
そういえば今朝から元気がなかったような気もする。

「具合でも悪いんやろか…送った方ええかな」

「…でももう帰ったかもしれへんやん。今日は2人で帰ろうや!」

携帯電話を覗き込んでいた傍らのベルが、腕を掴んで帰ろうと言う。始めは校内に戻ろうとしていたものの、アントーニョも歩きだした。



会ったその瞬間に分かってしまった。
この子も、彼の事が好きなんやって。彼を見る目が、うちと一緒やったから。
けれど、アントーニョについて知ってる事だって、一緒にいた時間だってロヴィーナに勝っていると自負している。なのになんやろ、何一つ彼女には劣ってないというのに、負けたくないというこの不安感は。負けるはずないのに、どうしようもなく不安。
アントーニョをなるべくロヴィーナから遠ざけたかった。彼の心をうちで一杯にしたかった。
笑えるやろ、あんたの幼なじみはこんなに卑怯で酷い女なんやで。
だから、帰りは2人になれると知って凄く嬉しかった。彼を独占できる、うちだけを見てもらえる。
それなのに、彼が2人で帰ることに応じなかったのは、あの子がアントーニョの心を占めているからや。せっかく2人で歩きだしたのに、彼が振り返った瞬間かけていってしまった。

「ごめん、やっぱ帰れへん!」

せっかく掴んだ腕は振り払われ、彼が向かうのは彼女のもと。
驚愕した。
学校の玄関で、彼女は静かに涙を流していたのだ。原因なら分かる。腕を組んで歩くうちらに決まっとる。
彼が彼女の涙を拭っているのが見えた。そんな2人の姿は、どうみてもカップルのよう。いつの間にか、うちの目には2人の姿が映らなくなっていた。

うちがどんなに涙を流しても、子供みたいに泣き叫んでも、あの子の一粒の涙には勝てないらしい。









アントーニョについて知ってる事だって、一緒にいた時間だってロヴィーナに勝っていると自負している。なのになんやろ、何一つ彼女には劣ってないというのに、負けたくないというこの不安感は。負けるはずないのに、どうしようもなく不安。
アントーニョをなるべくロヴィーナから遠ざけたかった。彼の心をうちで一杯にしたかった。
結局、彼女にそういう点では勝てても、彼の心を占める割合では勝ち目はないらしい。そない小さな事で勝ったと思い込んでいたなんてと、恋の盲目さに呆れた。

笑えるやろ、あんたの幼なじみはこんなにあんたの事が好きすぎて、馬鹿な女なんやで。
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