今年こそ





もう、会えないのか
セーヌ川のほとりに立って、彼女の心臓と灰が投げ捨てられたその川に向かって、俺は歌を歌った。
涙は枯れはて、目元はかさかさ、ひりひりと地味に痛い。でも君の痛みはもっとこんなもんじゃないんだろうね。ごめん、火に焼かれたことなんてないから、その痛みは分かってやれない。
もう、会えないの
俺は歌う。せめて魂を救ってやりたい。俺を救ってくれたように。



毎年5月8日に開かれるお祭りがある。君があの眉毛を撤退させた、500年以上前の今日がその、ジャンヌダルクの祭りだ。
時は止まることなく500年、時計の針が何百、何千、何万、何億回回ったか数えられない程の時間を経て、今じゃ君の顔を知っているのは俺だけになってしまった。
毎年女の子が1人、祭りの主役に選ばれる。君の格好をして、"今年の"ジャンヌダルクを演じるんだ。
俺は毎年その年のジャンヌに跪いて挨拶をする。そうして、祭りは始まるんだ。

去年のジャンヌも可愛かったよ。…冗談、君が一番さ。

君のような瞳を持つ少女は、もうこのフランスには生まれてこないのだろうか。毎年ジャンヌに選ばれる少女たちの目は、綺麗だけれども君のとは全然違う。貫くような強さがないんだ。いつだったか目の色が茶色の子が選ばれた時があったな。誰だろうね、少女を選んでる奴は。君の目は青だって注意しておこうか。


君が消えたあの日に立ったセーヌ川のほとり。全く同じ場所に立って見るけれど、君が帰ってくるはずもなく。君の面影だけを求めて生きてきたこの500年。おそらくこれからも続く。


もう、会えないのか
セーヌ川のほとりに立って、彼女の心臓と灰が投げ捨てられたその川に向かって、俺は歌を歌った。
涙は枯れはて、目元はかさかさ、ひりひりと地味に痛い。でも君の痛みはもっとこんなもんじゃないんだろうね。ごめん、火に焼かれたことなんてないから、その痛みは分かってやれない。
もう、会えないの
俺は歌う。せめて魂を救ってやりたい。俺を救ってくれたように。
愛の歌を。



後ろから声をかけられた。
もうすぐで祭りが始まるらしい。

今年のジャンヌはどんな子だろうね。




君であることを願って





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