「フランシス様は、アマゾネスをご存知で?」

「アマゾネス?…聞いたことないなぁ」

出陣を明日に控えた夜。自分の隣に座る少女は、大分小さくなった焚き火に手をかざして、そう尋ねてきた。

「アマゾネスは、はるか昔、古代にいたとされる女だけの部族です。」

自分は他の人間より何倍も長く生きてきたが、そんな名前は初めて聞いた。それを、まだ19年しか生きていない少女が知っている。本当にこの子は頭の良い、勉強熱心な子だ。
彼女の話によると、アマゾネスは鎧を着て馬に乗り、弓を武器に戦い、その勇壮さは近隣の部族に恐れられていたという。

「私も驚いたのが、女たちは成長すると、右の乳房を切り落としてしまうということです。弓を射るのに邪魔なんですって。
…いっそ私もそうしてみようかしら。」

「ジャンヌ!」

「ふふ、冗談ですよ。」

「君の冗談は冗談に聞こえないよ…。」

ふう、と長い息が漏れる。彼女、ジャンヌは相変わらず穏やかな瞳で微笑んでいる。

「俺は、君には少しでも女らしくしてもらいたいんだよ。長い髪をなびかせて、綺麗なドレスを着てさ。」

「今更できませんわ。戦に長い髪やスカートは不必要です。」

「そうだけどさぁ…」

「フランシス様、お忘れなきよう。私は貴方を守るために戦っているのです。その為なら、私はこの時代の…現代のアマゾネスになります。」

彼女の碧い瞳には迷いなんてものは窺えなかった。

「ですがアマゾネスが実在したという証拠は何処にもないので、実は幻の部族と呼ばれているんです。ですから私が、本物にして見せましょう。」

にっこり笑った彼女は、こうしてみるとやはり19歳の少女。

ああ。できるなら、君には俺たち国みたいに何百年も生きてもらいたいよ。
そうしたら、どんなに素敵なお嬢さんになることか。
でも君が人間であることは誰にも変えられない。

アマゾネスだけじゃない。人間は、特に君は本当に幻のような儚い存在だね。


そんな俺の願いに、神は見向きもせず

彼女は炎に包まれて
本当に幻になってしまった。





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