眠り姫は目覚めなかった





悪い魔女に呪いをかけられたお姫様は、糸車の針に指を差して、永遠の眠りについてしまいました。
眠っている間もお姫様は美しいままで、長い年月が過ぎました。
そこへ、ある1人の王子様が現れます。王子様がお姫様にキスをすると、魔法が解け、お姫様が目を覚ましたのです。
こうして2人は幸せに暮らしました。






そう話してくれたのは、お前だったよな。



真夜中、玄関から聞こえる大声に起こされた。
だんだんと大声は絶叫へと変わる。こんな時間に何があったのだろうと、眠い目を擦ってベッドから上半身を起こす。

「おい大丈夫か!?」
「しっかりして!」

絶えることなく次々と飛び交う声の中に、自分の支配国の名前が出てきた時の気持ちは想像できるだろうか。
それはアントーニョが帰ってきたことを意味する。

ロヴィーノは飛び起きて、玄関へと走った。裸足で床が冷たく感じたが、スリッパでさえ履く時間が惜しかった。
アントーニョが帰ってきた。
彼に会いたい一心で走った。

「アントー……!」

言い掛けて、言葉を飲み込んだ。
そこにいたのは、見たことの無いような酷く残酷な支配国の姿。
オランダや他の召使達に肩を支えられ、部屋に向かっているが、支えられているというよりは引きずられているに等しい。
もう意識がないようだった。

「ロヴィ……!」

ベルがロヴィーノに気付き、駆け寄ってきた。

「お、親分な、今めっちゃ疲れとるらしいから今日は休ませよ?な?」

嘘だ。ベルは嘘なんてつけない。すぐ顔にでるから。その証拠にほら。今にも泣きそうだ。

「せやからもう一度おやすみ!騒いで起こしてもうてごめんなぁ。」

ベルに促されて部屋に戻ったが、アントーニョの事が気がかりで、眠気なんて起こりさえしない。

時計が午前3時を指すころ。家中が静かになったから、とりあえずさっきの件については落ち着いたんだと予想出来た。
こっそり部屋を抜け出して、なるべく静かにアントーニョの部屋に向かった。これは無意識的だった。
会いたい、会いたい。

かちゃ、り。
小さく音を立てて彼の部屋の扉を開け、顔を覗かせると真っ暗だった。きつい消毒液の臭いが充満していて、思わず鼻をつまんだ。
暗い部屋の隅のベッドに、黒い塊が寝そべっていた。
その塊に近づくと、それは包帯やガーゼだらけだった。所々血が滲んでいて、怪我の酷さを物語る。
アントーニョは深い眠りについているようで、ロヴィーノの気配には全く気付かず瞳を閉じたまま。不謹慎にも、怪我だらけだけれども整った眠る顔を綺麗だと思ってしまった。



悪い魔女に呪いをかけられたお姫様は、糸車の針に指を差して、永遠の眠りについてしまいました。
眠っている間もお姫様は美しいままで、長い年月が過ぎました。
そこへ、ある1人の王子様が現れます。王子様がお姫様にキスをすると、魔法が解け、お姫様が目を覚ましたのです。
こうして2人は幸せに暮らしました。



アントーニョの顔をぼんやりと眺めていたら突然、彼が戦に行く前日に話してくれたおとぎ話を思い出した。
…王子も、こんな気持ちだったのかな。
そのおとぎ話と似たような境遇にたっている今、王子の気持ちがよく分かる気がした。
ロヴィーノは、自分の頭の中の王子に問いかける。

…眠っている姫を見てどう思った?
―美しい、と思ったよ
…なんで起こそうと思ったんだ?
―彼女が好きだからさ
…好きなら起こすのか?
―好きな人がいない恋なんて無理だろう

なんだ、俺と王子は共通点だらけじゃないか。

自分はまだまだ小さい子供だけれども。
助けたいと思えた。
愛しいと思えた。
起こしたいと思えた。

アントーニョが話してくれた言葉通りに、王子がそうしたように。目を閉じて。静かに。ゆっくりと。

祈りを込めて、彼の唇に自分のそれをそっと重ねた。














ロヴィーノの絶叫が、部屋に響き渡った。


おとぎ話も

魔法も

王子も

アントーニョも


嘘ばっかりじゃねえか!!






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