2






「大分晴れたなぁ…」


大型船の先端で、独り言にしては少し大きな声で言った。

船乗りになって8年。
悪天候のあとの、抜けるように晴れた空はたくさん見てきたが、何度見たって綺麗だ。
目の前には青い空と青い海だけが、視界の半分に真っ直ぐに線を引いてそれぞれあり、その他には何もない。
青と言っても、青にも色んな種類があり、天候や気温でその都度微妙に色が変わる。
青にだっていろんな顔があることを、長年の船上での生活で身をもって知った。

自分が船に乗るのはなぜなのかと何度か考えたことがある。
船が好きだから?冒険が好きだから?具体的には自分でも分からない。
だが、青ばかりの世界に、うっすらと遥か遠くに緑を見つけた時の喜びといったら、それはもう今まで経験したことのないほどのものである。
自分と船との繋がりを保っているのは、それなのだろうか。それともまた別のものなのか。

緑、すなわち陸地。
それは船乗り達の目標であり、希望であり、生きる意味だ。
その陸地を追い求めて、波と戦い自然と戦い、そして乗り越えて行くのだ。
知っているか、海は生きている。波を作り出し、人間や船さえも飲み込んでしまう。
飲み込まれた奴を何人も見てきたし、その中には友人もいた。
だがそんなことに怯えていてはならない。それでもまた船に乗る。
それが船乗りだ。

そうやって行く手を拒む自然に打ち勝った者だけ、船の上で長い間飢え飢え、喉から手が出る程狂おしく求めた希望を掴み取ることができる。

そして自分たちも、その中に含まれる。
その証拠に、地平線には小さな緑の塊がぽつりと浮かんでいる。

「アントーニョ、行くぞ!」

背後から、同じく船乗りであり友人のギルベルトとフランシスがそう叫んだ。

「おー」

そう言って踵を返しながら、アントーニョも離陸の準備を始めた。
実に久しぶりに見る陸地…これから足を踏み入れる、誰にも侵されたことのない、未知なる新しい世界へ。

自分が船に乗るのはなぜなのかと何度か考えたことがある。
船が好きだから?冒険が好きだから?具体的には自分でも分からない。

後にアントーニョは、彼との出会いによりその理由を知ることとなる。





「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -