timidity




「ロヴィーノ!」

部活を終えた彼に後ろから声をかけられて、
「待ちくたびれたぞちくしょーめ」
なんて言いながらも密かに心を躍らせた。



暗くなる時間が早まって、夏では昼みたいに明るかったこの時間帯も、今では夕日が西に大きく傾いている。
夕方に見えるこの太陽が、朝よりも昼よりも一番明るく見える気がした。

授業中先生が言っていた豆知識や、昼休み友達がバカなことをした話や、部活での出来事。
そんな他愛ない話をしながら、夕日の照る街を、2人で歩く。
影が前に2つ伸びていて、アントーニョとの身長差が以外とあることに眉をしかめてみたり。
それを言ったら大笑いされて軽く足を蹴ってみたり。

俺にとって、
この時間が、他とは比べられないほど幸せだ。

それはなぜなのかは、心の奥で分かってる。

隣で歩くアントーニョの横顔を盗み見ると、男にしては長すぎる睫毛がぱさぱさと動いて、その深い翡翠の瞳に影ができていて、綺麗だと思った。思わず目を細めた。




「あ、もうこんな時間や!」

2人で夕日を見ていて、この雰囲気なら今日こそ気持ちを伝えられるかなと思っていたら、アントーニョが時計を見て、はっとしたように言った。

「堪忍な、俺帰るわー」

「え、…」

踵を返した彼を引き止めることは、客観的に見たら簡単なことだ。

それでも俺は臆病者だから。

裾を掴んで、気持ちを伝えることができない。
少し伸ばした手が、だらしなく下に垂れた。
彼を呼び止めて、気を自分に向かせようともしない。
大きく開けた口は、言葉をその喉から出さないままゆっくり閉じられた。


今の関係が崩れるのが怖いだけ。気持ちを言ったら彼は困るに決まってる。
告白?
は、自殺行為さ。







     






気付いてるのに、いつまでも彼に対する自分の感情に名前を付けようとしない。
俺は本当に、臆病者だ。






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