2
おっちゃんは、あの絵が賞をとってから一気に有名になった。
親しい友としてはそりゃ大変喜ばしいことや。
俺かてめっちゃ嬉しいもん。
お祝いやってしたで。
けどな…ひとーつ我儘言わせてもらうとな…
やっぱりあの絵を美術館に飾るってのがどうしても嫌や。
飾られたらみんなの目にさらされるんやろ?
新聞とかインターネットにも載るんやろ?
そのうち世界中に広まるんやろ?
おぉ、現代の発達したメディア社会とは恐ろしいもんや。
あの絵はフランシスんちのえらい有名な美術館に飾られることになった。
最初は俺んとこの小さい美術館に飾られる予定やったのに。おっちゃんすごいで。
数日後、俺はフランシスんちの美術館に、絵を見に行った。
おっちゃんも一緒に、って思っとったんやけど、あれからたくさん取材や絵のオファーが来て、それどころやないんやって。
せやけどどうや。
美術館に来てみればあの絵を見に行列、行列、行列!3時間待ちとか言われたで。
せやけど俺やってあの絵にもう一度会いたいんや。
あの絵に会えるんやったら3時間なんてちょろいで。
そしたらどうや。
ようやく中に入れたら、あの絵は四方八方からカメラのフラッシュを浴びとんねん。
あれ?ここって撮影禁止やなかったっけ?
絵の前には警備員が体を張って、押し寄せる客を抑えとる。
なんだか絵に群れる大勢の客たちに近寄れへんくて、少し離れたところから絵を眺めた。
なんやろね…
あの絵が……あの絵に描かれとるあのこが遠いなぁ…って思ったら、なんや急に寂しくなってしもた。
こう…胸がむわーんというか、むかむかというか…とにかく居心地悪いねん。
知らずと俺は踵を返していた。
それでも俺はあの絵が見たくて毎日美術館に通った。
そりゃもう、毎日毎日まーいにちやで?
沸騰していた人気も少しずつ落ち着き始めて、絵を見に来る客がまばらになってきてもや。
自分でもここまでこの絵に依存してるのは異常じゃないやろかとも思ったけどな、ちゃうねん。
よくよく考えたら…うん、まるであれみたいや。
どうやら俺はこの絵に恋をしてもうたらしいな。
…ちゅーか、この絵に描かれとる青年に。
ほんま、自分でもびっくりやで。
じゃあお前はキャンパスに恋してるのか?絵の具に恋してるのか?って聞かれても首を横には振れへんのやから。
考えれば考えるほど青年…彼が愛しい。
横向いたまんまこっちに視線も向けてくれへん、話しかけても相づちもうってくれへん、けど好きや。
所詮片思いみたいやけど、ちっとも辛くなんかないで?や、むしろ幸せすら感じとる。せやから毎日彼に会いに行くんや。
まぁ、そのおかげで交通費と入場料で、バイトでコツコツ貯めとった俺のなけなしの金はもうすぐ底をつきそうやけどな。
そこまでする?って思うやろ?
せやけど恋してしもたんやもん。好きな人には毎日会いたいってキモチ、分かってくれへんやろか…?
「ふぃー、暑いわぁ…」
今日は猛暑日なんやって。
でも、入場料を出して、美術館に入れば、冷房の心地よい風が頬を撫でてくれる。
はぁ、楽園やんな。
あの絵と出会って半年以上が経つ。
相変わらず俺は毎日彼に会いに行ってるで。
毎日通うもんだから、美術館の人とも親しくなってるほどや。
今ではこの絵の人気もすっかり落ち着いて。
おっちゃんは、今でも有名な画家として絵を頑張っとる。あれからも次々と名作を生み出して、世界中の人を魅力してはるけど、そっちになびかんで未だこの絵にこだわってんのは俺だけ、やの。
美術館の人も言ってたで?
こんなにこの絵を長時間見てるのはアントーニョさんだけですよって。
俺な、独占欲強いからな、そーゆーのめっちゃ嬉しいねん。
今は俺だけが彼を見ていられる時間やぁーってな。
……ん?
でも今日はなんか、そうもいかないらしいな。
誰か1人、あの絵の前に立っとる。しかもずっとや。
後ろ向きやからよう分からへんけど…男、やんな?
しかも若そうや。
なんや?頭にピヨッとしたのんついとるで。なんやろ?あれ。
興味半分で、俺はなるべく足音をたてないように、そーっとそいつに近づいた。
そして、盗み見るように顔を覗いてみる。
「彼」、がおった。
平べったい紙の中やないで。立体やでリッタイ。
ピヨッとしたのがあるとこは絵とちゃうけど…絵を見るそいつの横顔は「彼」そのものやった。
一瞬絵から出てきたのかと思ったんやけど、「彼」はちゃんと額縁の中におる。
じゃあこの人は……?
「…?」
あかん、あんまりじろじろ見すぎたかもしれへん。
「彼」のそっくり生き写しさんがこっち見た。
その人の視線と、俺のそれとが交わった。
いつも横ばっか見てた「彼」と、やっと、初めて目が合ったような気がして、熱が顔にかーっと集まったんが自分でもよう分かったわ。
「な…何ですかこのやろー」
その人は少し怯えたようか顔をしていた。
君は誰なん?
君は絵から出てきたん?
名前なんていうん?
聞きたいことが喉の奥で混み合って、言葉にできずただ口をぱくぱくさせている俺に、その人は聞いてきはった。
そっくりというか、顔が全く同じすぎて…もう、この人を「彼」としか見れなくなってしまっとる。
ええい、あとは勢いや!
言ってしまえ、半年以上胸の中に秘めていた俺の想いを───。
その人こそが自分の慕う「彼」のモデルだったことを聞かされたのは、俺の想いに対して首を縦に振ってくれた後のこと。
――――――――
かなり長文になってしまってすみませんでした^^;
タイトルはぴぐまりおんと読みます。
ぴぐまりおんは昔のキプロスの王で、自分で作った石像に恋をしていたそうです。←元ネタw
あとロヴィが全然出てないw
ここまで読んで頂きありがとうございました!