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「で、ここがロヴィーナちゃんの部屋やで。好きに使てくれてええよ。」

「ありがとう、ございます…」



物心ついた時から孤児院にいて、妹のフェリシアーナや他の孤児たちと共に今までを過ごしてきた。
でもこの前、放火により、自分が人生の半分以上を過ごした、唯一の我が家と呼ぶことが出来たそこが、砂のお城が波に攫われ崩れるように、私達孤児の家があっけなく消えてしまった。本当に、あっけなく。
その家を失った孤児たちは、親戚や知り合いの家に引き取られたけれど、中にはそうじゃない子達だってたくさんいるの。
私とフェリシアーナもそう。

全く知らない人の家に預けられると知った時は不安で仕方なかった。フェリシアーナと住む所は別々、学校も転校。

周りの環境が、天が墜ちてきたかのように一瞬で180度変わってしまったようで。


妹と別れた後、ローデリヒさんとやらに着いてきて、私はここに辿り着いた。来る道中、広い庭を通って来たのだけど、視界に入るのは真っ赤なトマト畑ばかり。
そして、そのトマト畑に囲まれた大きな一軒家から出てきたのは、褐色の肌とグリーンの目が特徴的な、ちょっと変わった話し方をする青年だった。







今日から私は、この人と一緒に生活することになる。
今日初めて会った、アントーニョさんと。

衣食住を賄ってくれるのは、とっても有難い。でも今は、やっぱり不安の方がどうしても大きい。
孤児院とここでは距離がだいぶ離れているから、来週からは新しい学校に通うことになる。
今まで毎朝一緒に登校していたフェリシアーナも、今は違う学校に転校してしまって。
それからこの辺りの地理も覚えなくてはならない。
でも、何より問題なのが、初対面の若い男女が同じ屋根の下暮らすこと。

アントーニョさんは優しそうな人だけれど、まだ完全に信頼できてる訳じゃない。
私にこんなふうに接するのも、最初のうちだけかもしれない。

与えられた部屋から見える、キッチンで鼻歌を歌いながら料理をするアントーニョさんの背中をぼんやり眺めながら、そんなことを考えた。





夜遅くなって、アントーニョさんが押し入れからシーツや掛け布団を出してきてくれた。

「もし寒かったらすぐ言うてなぁ、毛布も出すさかい。」

「はい、ありがとうございます」

親切に微笑むアントーニョさんは、やっぱり悪そうな人には見えない。

「ほな、おやすみ。…あ」

私も夜の挨拶を返そうとした矢先、彼は何か思い出したように付け足して言った。

「もし……その、不安やったら…ドアの鍵閉めて寝てもええよ」

「え…」

「安心し、鍵閉まっててもドア叩いてちゃんと起こすさかい」

そう言って微笑みを浮かべる彼に、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
夜の挨拶を交わした後、迷いもなくドアの鍵を閉めた自分を、何故だか自分にもよく分からないが、無償に責めたくなったのだ。

自分だけを守ることを第一に優先するか。彼を信用することを第一に優先するか。
私の前に浮かび上がったその2つの難題は、一晩中頭の中を駆け巡り、気が付いたら窓の外がほんのりと明るくなっていたのが見えた。







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