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「丘の上に孤児院あったの、わかりますよね?実は最近、その孤児院が火事でなくなってしまったらしくて…。
突然ですけど、行き場の無くなった子を、しばらくの間面倒見ててくれませんか?」



そうローデリヒから告げられたのは、3日ほど前だったか。

何でも、行き場の無い子が随分いるらしく、1人暮らしの自分にもその話が回ってきた。

高校生の子だから、そんなに負担にはならないはずだって言われたけど

俺にも自分の生活リズムっちゅーのがあんねん。
いや引き受けるけどな。
俺そんな薄情な奴やないもん。

せやけど……なんか、
忙しくなりそうやなぁ…


そして今日、ローデリヒがその孤児を連れて来た。



でもな、



こんなん聞いてへんで



高校生っていうたけど




















女の子やんか!!








うちの玄関先に、大きな荷物をかかえて、緊張しているのか肩を上げて立つひとりの女の子。
俯いていて顔はよう見えへん。

ってそんなことはええねん!

俺はローデリヒの腕を強く引っ張って、その耳に小さな声で言った。

「ちょぉ、女の子やなんて聞いてへんで!」

しばらくの間とはいえ、これから女の子と二人暮らしだなんて冗談じゃない。


焦る俺とは反対に、ローデリヒはいつもの冷静な声で言う。

「私だってさっき会ったばかりなんですよ。施設には男性がほとんどいなかったようですし。
それに、私の家でも女の子を1人預かったんです。」


せやけどお前んちにはエリザがおるやん!
うちには……


そう言おうとしたのに、ローデリヒは「ではよろしくお願いしますね。」とだけ言い残して、足早に帰ってしまった。







自宅の玄関に取り残された俺と女の子。
何を喋ったらいいのか分からず、気まずい空気が流れる。

女の子はというと、ローデリヒの去っていった方向を、不安でいっぱいな顔で見つめている。

「あー、えっと…な」

重い空気を割いて言葉を発したのは自分だ。
その言葉に、今まで顔を俯かせていた女の子が、ゆるゆると顔を上げた。

俺の視線と彼女のそれとが交わった。

彼女はすぐに視線を落としてしまったけれど



えらい、……
美人さんや………


大きなオリーブ色の瞳に、長い睫毛、
そして整った顔立ちに、心臓が小さく跳ねた。

こんな美人は、テレビや雑誌でしか見たことがない。
いや、それ以上かもしれない。

「まぁ、とりあえず中…入りぃや…」

必死で平常心を保ちつつ、彼女にそう話し掛けた。

彼女はすごくおどおどしていたけど、小さくコクリと頷いた。












何だろうこの状態は。

自分ちの居間で

テーブルを挟んで美人高校生と俺。

お互いに緊張してしまって、自分の家だというのに正座で座っている自分。
すごく滑稽だ。

女の子に視線をちらりと向けると、正座で俯いたまま。
手をぎゅっと握り締めて、
唇をきゅ、と噛み締めて、

肩は……

あれ、

もしかして

震えて、る…?




「なぁ、」

そう話し掛けたら、彼女の肩がびくりと上がる。

「あ、すまへん…」

知らない人にいきなり話し掛けたらそりゃびっくりするやんな。
そう謝ると、彼女はふるふると首を振る。
あぁ、そんな気ぃ遣わんといて。

「えっとな…」

今度は、彼女が驚かないよう、少し小さめの声で話し掛ける。

「怖い……?」

彼女は俯いていた顔を、さらに深く俯かせた。

「ええよ、正直に言うて。何言っても怒ったりせぇへんから。」

それから彼女は、手を強く握り締めて、か細い震える声でこたえた。

「し………知らない人と住むって、いうのは……怖い、です……」

……せやな。
そうやと思うで。
俺かて不安いっぱいやもん。

「うん、そうこたえると思っとったわ。」

俺がそう言うと、彼女は顔を上げた。

あ、ちょっと涙目…

「俺も突然の事でいろいろ混乱しとるけど、仕方ないことやし…今は素直に受け入れるしかあらへん。」

「……はい」

彼女はコクリと頷いた。
あぁそういえば…


「名前は?」

「……え?」

「名前教えてぇや。これから一緒に過ごすんやし。」
彼女は大きな瞳をぱちくりさせて、暫くしてその形の良い唇を開いた。

「ロヴィーナ…。ロヴィーナ・ヴァルガスです」

「ロヴィーナ、かぁ。ええ名前やんな!俺はアントーニョや。よろしゅうなロヴィーナ。」

「アントーニョ、さん…」

彼女、すなわちロヴィーナは俺の名前を小さく呟いた後、よろしくお願いしますと言った。









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