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ドンドン………ドンドン………
広い病院の長い廊下の奥から聞こえてくる、玄関を叩く音。
休むことを知らないというふうに耳に響き続けるその音に、仮眠をとっていたアントーニョは目蓋を開ける。
「ん〜、」
むくりと椅子から体を起こし、音のする玄関へ歩きだす。
また患者か。こんな夜中に。
まあ夜中だろうが昼だろうが、患者のために働くのが病院の宿命なのだけども。
玄関に近づいていくと、少し高めの男の声が聞こえた。
「すみません!開けてください!お願いします!」
その言葉を繰り返し繰り返し言っては、玄関を叩き続ける。
でも、どうも様子が変だ。緊急の用事なら、病院に連絡をして、救急車に迎えに来てもらうのが普通だろう。
それなのに、直々病院に来るなんて。
アントーニョは、非難口の標識がぼんやりと光る廊下を足速に通り、玄関へ急いだ。
ガラス張りの玄関に着くと、案の定玄関を叩く青年がひとり。
この時間帯、自動では開かない扉をこちら側から開くと、その髪に特徴的なクセを持つ青年がかけよってきた。
「夜遅くにごめんなさい!でもお願い、助けて!」
「まぁ落ち着いて、どうしはったんですか?」
そう尋ねると、青年は俯き、ボソリと言った。
「兄ちゃんが病気なんです……」
「兄ちゃん?」
ふと顔を上げると、青年の後ろにもう1人青年がいた。
外見はとてもよく似ているが、なんとなく雰囲気が違う。
兄ちゃんと呼ばれる青年は、じっとこちらを見ている。
病気と言ったが、見たところ今は病気で苦しんでいたりしていないし、意識だってしっかりしている。
でも弟のほうは凄く焦っている様子で。
兄は一体何の病気を持っているのだろうか。
病気を調べる必要があるのと、もう夜遅いので
「まぁとりあえず中入ってや」
と弟を落ち着かせ、2人に中に入るよう促した。