「あかん、もう時間や」

ごめんなぁと、時計を見てアントーニョは申し訳なさそうにロヴィーナの頭を撫でた。
その度に、正確に時を刻むそれを、ロヴィーナはいつも憎たらしい目で睨む。時計が悪い訳ではないのだ。止まることなく過ぎてゆく時間を、ロヴィーナはひたすらに嫌っていた。

もともと家が隣同士だったアントーニョとロヴィーナは、幼なじみであり恋人同士であった。
しかし彼の高校進学と共に、2人でいれる時間はどんどん減っていった。
仲が悪くなったのではない。アントーニョの進学したのが全寮制の男子校で、規則や門限にとにかく厳しいためであった。

今だって、まだ午後6時半なのに。夕日が一番綺麗な時間帯だから、2人で一緒に見たいと思ってデートにこの場所を選んだのに。
門限が彼を縛る。門限が2人の時間を奪ってゆく。ロヴィーナはただそれが不満だった。
口に出しては決して言えないけど、できるならもっとアントーニョと長い時間を過ごしたいと思っているのだ。

「ほな、またな!おやすみ」

午後6時53分。門限まであと7分にも関わらず、ロヴィーナを自宅の前まで送ってから、大急ぎで帰っていく彼。その走り小さくなって行く背中すら、いとおしくて。
ロヴィーナは下唇を噛んだ。




門限にギリギリ間に合ったアントーニョは、息切れに肩を激しく上下して、別れ際の彼女の顔を思い出す。大切に思っとるロヴィーナに、あんま悲しい思いさせとうないのになぁ…。
とはいえそれを覚悟して入寮したのだ。ずっと入りたかった学校だし、出ていくつもりもない。けれど。…卒業まであと3年、耐えられるだろうか。




次の日は平日で、アントーニョはいつも通り6時頃に寮に帰ってきた。自分の部屋、重い荷物をどさりと投げ出して制服から部屋着へと着替える。
今日は会えない代わりにロヴィーナに電話をかけようと、携帯電話でコールを鳴らし始めた時、部屋の扉をノックする音がした。また隣の部屋の友人の、宿題を見せてほしいとの頼みだろうか。
電話を片手に扉を開くと、随分小柄な男が、俯き気味で立っていた。知り合いではない、見覚えのない男。
あれ、誰やっけ…
一方的にこっちが忘れていた友人だったら失礼だと思い、一応名前を尋ねてみることにする。

「えーと…、自分、」

そう言い掛けた刹那、男は今にも泣きそうな顔をばっと上げてアントーニョに飛び付き、中から扉を閉めた。

「わ、えっ!?ちょ、何すんっ…」
「ここまで来るの怖かったんだから!!」

しがみ付いたまま胸元で叫ばれた声に、聞き覚えがあった。

「ロ…ロヴィーナ、さん?」
「何よ」
「ほんまにロヴィーナなん!?」
「…もしかして気付かなかったの?」
「や、やって髪…!服も…」

昨日会った彼女は、確かに緩いウェーブのかかったミディアムの髪に、スカートをはいていたはず。けれど目の前のロヴィーナは男みたいに短い髪にシンプルなジーパンとパーカー。

「髪はカツラ。服はフェリシアーノに借りてきた」
「そ、そうなんや…」

アントーニョはロヴィーナのふわふわした栗色の髪が好きだったため、最初せっかくのあんなに綺麗な髪を切ってしまったのではないかと焦った。どんな髪をしていても、ロヴィーナには似合うし、好きなことに変わりはないのだが。そうして、アントーニョは一番大事なことに気が付いた。

「てか、なんでここにいるん!?男子寮やで!?」
「っ!そ…れは…」

理由を聞くなり赤くなって目をそらす。この反応はいつものことだから、いつものようにぼそぼそと小さくつぶやく言葉を耳で拾う。

「……会いたく、なっちゃって…。で、でも迷惑だったよね!急に押し掛けちゃったし……ごめん、帰る」

言いたいこと言って帰ろうと踵を返すロヴィーナを、後ろから抱き締める。
そりゃずるいわロヴィーナ。

「何…」

泣きそうな涙声。男の格好をしていたって、可愛え。尋常じゃなく可愛え…

「会いにきてくれたんやろ…?もっとゆっくりしていきぃや…な?」

そう耳元で囁いて、首だけ振り向くロヴィーナに、そっと口付けを落とした。




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男装ネタには初挑戦でございまして…某所にてネタを提供して頂いたりして助けられながら書かせて頂きました。
ロヴィーナさんは男装したらきっと綺麗な男の子になるだろうと勝手に考えております!

親分の最後のセリフ、「門限すぎとるさかい…今日はもう帰れんで」と悩んだのですが、いろんなフラグが立ちまくって長くなりそうだったので断念いたしました^^;←
遅くなりましたが気に入って頂けたら幸いです。
けろ様、リクエストして頂きありがとうございました!



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