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会場を埋め尽くすといっても過言ではない程、招待客が集まっていた。開会の挨拶を任されていたアントーニョは、緊張と人口密度から汗をかいた。

「紳士淑女の皆様、本日は我が国の王の生誕祭にお越しいただき、誠にありがとうございます。今宵は──」

堅苦しい挨拶。本心を言うと、こんな挨拶放っぽって、広場で待つ彼女に早く会いたかった。
彼の挨拶で、会場中央で美しい三拍子のワルツが始まる。
始まって間もなく、招待客の貴族達が次々と挨拶にやってくる。王の後継者としてそれらに付き添い笑顔で挨拶を交わす。もちろん社交辞令だ。
約束の時間まで、気が付けばあと10分となっていた。大分我慢してここまで社交辞令に付き合ってきたのだ、そろそろアントーニョも限界だった。まさに抜け出そうとして裏口へ方向を変えた瞬間、後ろから声をかけられる。

「王子様、御機嫌よう」

歳は20代前半位の、淡い色のパーティードレスに身を包んだ大人しそうな女性だった。どこかで見た顔だと思い少し考え、以前チャリティーパーティーで顔を合わせた、慈善活動に熱心な女性だと思いだした。

「お久しぶりです」

ああ、早く彼女に会いたいのに!必死に笑顔を作っていたが、内心は外で待つ彼女のことでいっぱいで、何を話したかはあまりよく覚えていない。ただ、最後にダンスをエスコートして欲しいという頼みを断ったことだけは覚えている。

後で父上に怒られんなぁ…
このような場所で、男性が女性からのダンスの申し込みを断るなど、極めて稀なことであった。そもそも、身分の高い家柄で育った男性はたいてい、踊ることは勤めだと教わる。
…初めて、ダンスを断った。

約束の時間まであと3分。
なんとか間に合いそうだと、アントーニョは更に足を速めて天使の像の広場を目指す。


天使の像の広場は、その名の通り広場の中央を天使を型取った彫像があり、それを囲むように円状に10本の柱が建っている。更にその周りの花壇には、無数の季節の花が咲いていた。数本ある電灯は薄暗く、より花の色が幻想的に見える。

柱のすぐ隣に、人の影を捕える。急いで少し乱れた息を整えて、声をかける。時間はぴったり。

「ロヴィーナちゃん」









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テーマ「人外ファンタジー」
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