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着飾った馬を何頭も従えた華美な馬車が、何台も門をくぐり抜け、その中から更に派手なドレスを着た女性達が、男にエスコートされながら馬車から降りてはパーティホールへと足を運んだ。
そんな光景を、ロヴィーナは部屋の窓から静かに見下ろしていた。

今宵、王の生誕を祝う祭典が開かれるのだ。
本来ならロヴィーナは今頃パーティホールでお客様に飲み物を渡したり、料理を運んだりしているはずだった。しかしそれをアントーニョから止められている。毎回パーティの時には、仕事の合間に貴族達の綺麗な洋服やダンスを見ては秘かに楽しんでいたのだが、今回は出来そうにない。

何故ならばそれはアントーニョがロヴィーナにドレスをプレゼントした、あの日の夜までさかのぼる。貰ったドレスを着る機会がないと言った時のこと。

『ちゃあんと考えてあんねん!ロヴィーナちゃん、来週父上の誕生会があんの知っとるやろ?その時に着たって!』

ロヴィーナは一瞬硬直した。祭典で着ろと彼は言うのだ。

『えっ…!?着て…何処へ?まさか会場だなんてことは…』
『え?それ以外何処があんの?』

アントーニョはきょとんとして聞き返した。ロヴィーナは冷や汗を少しかいた。

『私、他の使用人には顔が知れていますし、もし見つかったら…』

見つかったら、きっと指を刺されて叫ばれるだろう。『身分もわきまえられない使用人が紛れている』と。その先は、できれば考えたくなかった。ロヴィーナがぎゅうとスカートの裾を握る。彼女達に会っていないからといっても、あの虐めの余韻はまだロヴィーナの心に深く刻まれているのだ。その様子に気付いたアントーニョは、少し考えて提案を改めた。

『あぁそっか、他の使用人の前やとあかんなぁ。ほなこうしよか。午後9時になったら、天使の像の広場に来たって。もちろんそれ着てな』
『天使の像の広場…ですか』
『そ。木に囲まれとるあそこやったら、周りの目ぇ気にせんでええやろ?9時になったら俺もパーティ抜け出すさかい、そこで待ち合わせや』

ロヴィーナは目を真ん丸くして彼の話を聞いていた。

『どうしてそこまで…』

゙好きやから゙って言ったら、彼女はどんな顔をするだろうかと思った。でも言えなかった。言える訳がない。口を開いたアントーニョは咄嗟に誤魔化した。

『見せたって、俺がプレゼントした服を着たロヴィーナちゃんを』

その瞬間ロヴィーナの頬に淡紅が灯ったのを見て、あ、可愛えなんて無意識に思ってしまって。同時に、誤魔化しとはいえ随分と臭い事を言ったなとこちらも恥ずかしくなって己の口を覆った。それでも彼女は、暫く俯いた後、小さな承諾の返事を返してくれた。




現在午後6時50分。
件の時刻まで、あと2時間10分。
彼に貰ったドレスを身にまとったロヴィーナは、その2時間さえも僅かに感じた。
アントーニョはドレスと一緒に靴やアクセサリーなど、様々な物をプレゼントした。
ロヴィーナはお客様のお召しかえを何度か手伝った事があったのでドレスの着せ方は分かっていたのだが、まさか自分で着るようになるとは思ってもいなかった。

高いヒールの歩き辛いこと、コルセットがこんなにも苦しいものであること、ドレスが意外にも重いこと。着てみないと分からないことだらけであった。



午後7時を告げる鐘の音が轟く。

パーティの開幕の拍手の雨が降った。








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