Made in music
微妙な学パロ
音楽が聞こえる。
日が眩しく照り、長い影を作る夕方。駅の出口から出ると、遠くから小さくも自然と耳に入ってくる音に足を止めた。
今日渡ったテストの結果が思いの外悪くて気が落ち込んでいたからか。そんな自分とは反対に、楽しそうなアップテンポなギターとドラムの音と伸びやかな歌声に、いつの間にかロヴィーノの爪先は、まるで引き寄せられるかのように音のする方へと向かっていた。
一歩、一歩とゆっくり近づいてみると、そこには10人位の女子達が集まっていて、その群の中心部に向かってきゃあきゃあ騒いだり、携帯電話のカメラを向けたりしている。
……バンド?
聞こえてきた音の源は、駅前の道でストリートライブをしている3人の男だった。
青い目にウェーブのかかった長い金髪の男。
映える銀髪の紅い釣り上がった目を持つ男。
翡翠の目をした癖毛の強い茶髪の男。
それぞれがドラム、ギター、ボーカルを務めていた。
一見共通点なんて見当たらない3人だが、3人の奏でる音楽はひとつひとつはまだ未熟だが、他にはない協調性があるように思えた。別に音楽に詳しい訳ではないけれど。
3人が生み出す、聞いていて心地よいメロディ。遠くから眺めてるだけのつもりだったのに、ロヴィーノは無意識のうちにその群へ近づいていた。
曲が終わると、3人はぺこりとお辞儀をした。群がっていた女の子達も最後にまた数枚写真を撮った後、スカートをひらめかせて帰っていった。
「珍しいな、男なんて」
その場に立ったままだった自分に、銀髪の男が気付いて言った。銀髪に吊り上がった赤い目で目立っている上、口調もなんだか怖そう。
「あ、その制服、教会の向かいの学校のでしょ!」
金髪の髭面の男も話し掛けて来た。長髪だからか、口調もなんだか女々しく感じる。
わらわらと2人に寄られて話し掛けられて、何も答えられずにいると、もう1人が口を挟んだ。
「なぁ、俺達の曲聞いてくれたんやんな?」
他の2人とも自分とも違うイントネーションに一瞬戸惑った。振り向くと翡翠の目と自分のそれとがかっちり合って、どきりとした。
「どうやった?」
音楽に関してはあまり詳しくはないのだけれど、率直にすごいと思った。だから思った事をそのまま口にした。
「なんか、すごい格好よかった…し、」
「し?」
「…こっちまで元気になれるような、そんな演奏だった」
感想を言うだけなのに、なぜか恥ずかしくて少し俯くと、いきなり両手をぎゅっと掴まれ驚いた。顔を上げれば、目の前にひどく輝く翡翠の2つの瞳。
「それほんま!?嬉しいわ!」
掴んだ腕をぶんぶん上下に動かして、ありがとうを全身で伝えてくる彼。そんな様子に思わずふっと笑みがこぼれた。
「また来てねー」
「絶対やでー」
自分達を背に歩いていく彼が見えなくなるまで、手を降り続けた。
「珍しいな、お前が観客にあんなに構うなんて」
ギターを丁寧にしまいながら、ギルベルトはアントーニョに話し掛ける。するとフランシスは顔を緩ませながら、まるで全てを知り尽くしているかのようにアントーニョに耳打ちする。
「あれでしょ?好みだったんだろ!」
「好みっちゅうか……どストライク…!」
「また来てくれるといいね」
「せやねぇ…」
彼の褐色の肌がふっと赤らんで、優しい顔になる。
「じゃあ次はロックじゃなくて、違うの演奏しようか」
「何を?」
ギルベルトとアントーニョが、同時に顔をフランシスに向けて首を傾げる。フランシスはウインクしてみせて答えた。
「誰かさんの為に、ピュアなラブソングをね」