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その日、事件は起こった。

「…かーさん」
「どうした。…、仲権…!どうした、転んだのか!?」
「ううん。かーさん、おれ、かーさんはかーさんなんだよ」
「…?どういう、」
「とーさんとかーさんが、一緒じゃないと、へんなの?じょしょさんがはくやくのとーさんだとへんなの?」
「ちゅ、うけん…」
「はくやく、こっちこいよ」

障子の向こうから現れた子どもも、もう一人と同じように汚れていた。
仲権と違うのは、傷がないところ。
仲権は、頭から血を流していた。
法正はそれを見て肝を冷やしたが、どうやらもう固まり始めて居るみたいで、胸をなで下ろす。

「…ほう、せいさん…、わたしは、あなたたちのむすこになれて、うれしいんです」
「……」
「うれしくて、つい、ようちえんで言っちゃったんです。おとうさんもおかあさんも、男のひとだって」
「…伯約」
「そしたら、へんだ、きもちわるいって、言われて…ちゅうけんが怒って、けんかして…けがさせてしまいました。ごめんなさい」
「おれはいいっていってんの!なあかーさん、かーさんはおれらのかーさんだよな?おれはとーさんが違うけど、へんじゃないよな!?」

すでに泣きはらしたであろう赤い目を潤ませて、強い眼差しで法正を見ている。
恐らく、姜維も、夏侯覇も、法正と徐庶のために戦ってきたのだろう。
確かに法正と徐庶は男同士で、世間一般から言われる夫婦からは逸脱している。
それでも法正は徐庶と添い遂げる覚悟は出来ていたし、徐庶もそうだという。
姜維も夏侯覇も、決して自力では授かることはできないのだ。
であるからして、徐庶はまだしも法正はこの子達とはうまくいくのだろうか、という不安を人知れず抱えていた。
だが、血の繋がらないこの子たちが、世話をする自分たちを親と慕い、非難されて怒り、戦うなんて。
今にもまた涙が零れそうな二人を、優しく引き寄せて頭を撫でてやると小さな手がシャツを掴んでくる。

「…俺は、本来お前達の前に居ちゃいけないもんだと思っていた。徐庶だけで、徐庶だけのほうがお前等にはいいのではないか、と」
「かーさんがいないなんてやだ!」
「わたしも、いやです!じょしょさんとほうせいさんがいないと、いやです…」
「くくっ…心配するな、お前等がでかくなって、自立するまで面倒みてやるさ。お前等には借りがある、それを何年もかけて返してやる」
「かり?」
「ああ、お前等が俺達のもとにいてくれるという、最大の恩だ。伯約、仲権、曲がりなりにも俺達を親と呼んでくれて、ありがとう」

揺れる目からついに涙が決壊し、同時に縋りついてくる。
これから大きくなるであろう背を緩く撫で、額に唇を落とすと、二人は声を上げて泣きじゃくっていた。



「ただいまー。…あれ?ただいまー…あ、」

徐庶が帰宅すると、居間で三人並んで寝ているのを発見した。
頭を法正の両脇に収め、丸まって寝る子ども達はまるで猫のようで可愛らしい。
真ん中で寝ている愛しい恋人の顔も、穏やかで胸が暖かくなる。
徐庶は身を屈めて法正の頬に口付けると、買い物袋を置いてエプロンを装着した。



夏侯覇の傷は姜維を守ったことによる勲章…
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