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薬のにおい。
分類的には同じはずなのに、あいつはいいにおいがする。
つんとするはずの消毒液も、まっさらな包帯も、ふわりとしたガーゼも、それこそまるでアロマのようだ。
それに比べて俺は硫酸、硫黄、アンモニア。
全てがそうというわけではないが、劇薬のにおいのする白衣を纏い、今日も俺はにおいの充満する準備室にいる。
アルコールランプで沸かした湯にコーヒーの粉を入れ、マドラーで回せばみるみるうちに檜皮色。
俺を現す色のようだ、といつも思う。
そこにフレッシュを投入すると、あっという間に色が薄まる。
二個、三個と入れていけば、益々。
あとはスティックシュガーを三本まとめて封を切り、全て放り込む。
先程の色なんて、もう僅かにしか残っていなかった。

「孝直、来たよ」

柔らかい声が聞こえる。
俺の檜皮色の低い声ではない、飴色の優しい声。
二人だけでしか呼ばない名前を口にされ、俺の中で水素爆発が起こりそうなくらいの胸の高鳴り。
俺が一触即発の劇薬であるならば、あいつは俺を別の物に作り替えてしまう唯一の中和剤だ。
俺の中の化学方程式なんか、もはやただの記号にしかならないくらい、徹底的に分解されてしまう。
ああ、あいつ、あいつこそがもはや。

「この、最上級の化学兵器め」
「は?」

俺は徐元直がいるだけで、劇薬から人間になれるのだ。
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