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「あけましておめでとうございます、法正さん」
「ああ」
「…法正さんて、こういうの言わないんですね。なんだか寂しいです」
「お前が今言ったんだから、別にいいだろう」
「うーん…」

腑に落ちない顔でみかんを剥く徐庶は、まるで拗ねた子どものようだ。
吸っていた煙草を灰皿に押し付け、同じようにみかんを手にとって皮を剥く。
ぺりぺりと剥きながら相手の顔を盗み見ると、まだ何か期待した目でこちらを見ていた。
言った所でなにがあるというわけではないのに、意固地な奴だ。

「…あけましておめでとう、元直」
「あ、あけましておめでとうございますっ、孝直さんっ」
「言い直す必要なんてないだろ」
「いや…そうですけど、ええと…一緒に祝うの、なんだか嬉しくないですか?」
「よくわからんな」
「好きな人の名前を呼んで、新年を一緒に迎えて、こうして過ごせて…俺は嬉しいですし、幸せです」

先程拗ねた表情から一変して、途端にへにゃ、と笑う。
ああ、全く。
俺はこいつのこういう所に弱いんだ。
細めの眉をハの字にして、幸せだ、と言って笑う顔が、本当に。

「…元直、」
「は、はい」
「今まで元旦だの新年だの、どうでもよかったが…こうしてお前の顔を見て、名前を呼ばれて、共に居る事は、確かにこれまでに体験したどの時間よりも儚く、それでいて有意義に思える」
「……」
「俺の人生なんて、本当につまらないものだと思っていた。あらゆる報復、報恩を繰り返した所で、充実した人生なんてものは望めないと」
「そんな、」
「だが、今は」

みかんを置いてこたつの同じ面に入り、肩を合わせると少しだけ体が跳ねる。
他人に触られる事にいつまでも慣れないらしく、こちらから動くと必ずと言っていいほど固まってしまう。
昔はこれでも無頼漢だったというが、未だに信じられなかった。
少し期待したような顔を手で挟むと、無精髭が手の平に当たってこそばゆい。
この感触も、嫌いではない。

「こうして共に触れ合えて居るだけで俺は柄にもないくらい胸が高鳴るし、この時間が惜しいとさえ感じる。俺にここまで思わせるなんて、本当に罪深い奴だ」
「あ…は、い…え、はい…」
「この思いは一生をかけて返そうにも、返しきれないぐらい…お前を好きだと、思う」
「こ、こう、ちょく」
「俺の中で幸福というものが存在するなら、元直と居る時間が幸福だ。…おい、聞いてるのか」
「き、いてる、きいてるよ、こうちょく、孝直っ」
「おわっ」

眼鏡のレンズに涙を張り付かせながら鼻を啜り、俺の体を抱き締めて床に倒される。
泣きじゃくって情けない癖に体は積極的で、おかしな奴だ。

「孝直、幸せにする、必ず、俺が幸せにするから…俺と、居て下さい」
「ふ…言われなくても、離れるものか。俺は執念深いからな」

そう言うと、また眉をハの字にして顔を近付けてくる。
涙と鼻水まみれの顔でよくキスなんかできるもんだ、と思いながら、降ってきた唇に素直に目を閉じた。


新年早々甘めですみません
今年もよろしくお願いします!
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