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勇気を出して買ってきた。
カップルが多く行き交う百貨店に、単身で。
今日はイベントがあって忙しい、とは事前に聞いていたし、帰りが遅いどころか今日中には渡せないかも知れないが。
それでも周りの空気に浮かされて、徐庶は冷たい空気に当てられながら珍しく家から出た。
人と目を合わせるのが怖くて、パーカーのフードは被ったまま斜め下を向いて歩く。
箱を持った手が寒くて白い息を吹きかければ、指先が少しだけじんわりと熱を取り戻す。
手を繋ぎながら幸せそうに歩くカップルが目の前を歩いていて、正直羨ましく思う。
ぼんやりと考えながら歩いていると、交差点に差し掛かったところで信号に捕まった。
この信号は変わるのが遅い。
待つ人の暇つぶし用なのか、目の前を走る車より向こう側のビルに備え付けられたモニターがある。
そのモニターからは旬のアイドルの歌が流れており、数人の女の子が黄色い声を上げていた。

『メリークリスマス!』

どうやらイベントライブの生放送らしい。
モニターの中のアイドルは眩しいくらいに輝かしい笑顔で人々を魅了している。
ああ、またそんなに登り詰めてしまって、君はこちらに帰ってこれるのか。
きらきらと輝く笑顔は決して揺るがず、不動の頂点に君臨している。
郭嘉奉孝。
現代でのトップアイドルである。

「…君はいつもかっこいいな」

昔、ひょんな事から出会い、徐庶は郭嘉の恩人から友人へ。
そして、友人から恋人になった。
そうなるまでは色々あったが、今ではもう笑い話で。
モニターの中で歌って踊るスーパーアイドルの郭嘉は、徐庶にとっては尊く、そして大事なひとりの人間であった。

「奉孝、家で待っているよ」

そう呟くと、信号が変わって周りの人間が一斉に動き出す。
徐庶もそれに合わせ、横断歩道を渡り始めた。
握りしめた箱は、手の温度が渡ってほんのり暖かかった。




郭嘉はアイドル、徐庶は翻訳家。
いちゃこらさせるつもりが…
出逢い編やその後話もまたいつか。

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