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俺って寂しいよなー。
って呟いてみたら、余計寂しくなった。
10年ぶりにイングランドから帰ってみたら友人(そもそも渡海してからは友人もいなくなってたけど)はみんな家庭持ち、気付いたら俺は35。
今日も懲りずにビール片手にサッカー観戦、世間からみたら限りなく寂しい独身男性、外は雪だというのに人っ子一人いない。
家もなくてクラブの用具室、他チームの試合を見る用途しかない、番組が映らないテレビ。
画面の中の歓声を聞きながら、紙面にボールペンを走らせるだけの簡単なお仕事。
考える事に脳が乳酸漬けになるような、そんな疲れるお仕事。
他のみんなは家族と過ごしたり、明日はオフだからと飲みに行ったり、そういや合コンに失敗して丹波が喚いていたな、ざまあみろ。
そういう奴らも何だかんだ言って結局飲み屋に行ってサッカーの話や芸能人、身近な人、世間とかの話をして楽しんでいるだろう。
楽しめる奴はとことん楽しんだほうがいい。
そういう考え方の俺は他のみんなが家族と愛ある時間を過ごそうが、仲間と親密な関係を築こうが何とも思わない。
むしろもっとやれ、な人間だ。
だから一人でこうしてクリスマスとか言うおめでたい日に部屋でこもってひたすら仕事をしている。
戦う度劣勢を強いられるチームを、強くすることを考える。
時計も見ずに何時間もそうやっていたもんだから、流石に疲れてきた。
ベッドに縋りつくように倒れ、少しだけ寝ようと瞼を閉じる。
真冬の気温に晒されたシーツはとても冷たくて、なぜか鼻が痛くなる。
そういえば、近頃あたたまっていない。
気温がどう、とかじゃなくて、もっと、包まれるような。

『達海』

ああ、そうだ、俺は確かに寂しいんだ。
あの温もりが恋しくて恋しくて、泣き叫びたい程に。
こんなに感傷的になるなんて、クリスマスっていうのは本当に嫌な日だ。
うとうとと霞む頭の中で反芻する、俺を呼ぶ声。
本当は、居て欲しかった。

「…後藤、」




「達海っ!すまん、起きてるか!?」

呟いた途端にドアが思い切り開かれて、風圧で俺が書いたメモがその辺に散る。
あー、せっかくまとめてたのに。

「んだよ後藤…忘れもん?ふあぁ」
「すまん、これ…一緒に食おう!」

そう言って差し出されたのは、コンビニの袋。
袋の中には、三角の形をしたケーキ。
いや、三角…では、ない。

「…ぐっちゃぐちゃなんだけど」
「え、あ…!は、走ってきたから、ああっ…俺の馬鹿!」

39のおっさんが走ってきたって、うまく息できてねえじゃんか。
冬だと言うのに汗をかきまくっている後藤を見て、また鼻がつん、とした。

「達海…、俺ですまん、が、はぁ、一緒に…」
「うん」
「あ?」
「一緒に食おう、後藤」

ぐっちゃぐちゃのケーキを二人で、時間をかけて食べよう。



ゴトタツメリクリ
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