ペンギンWD | ナノ

今日はペンギンに会えなくなった。

ずっと前から会う約束をしてたのに、急に残業が入った、とか。上司め、恨むぞ!残業のばかやろう!


部屋でひとりクッションを抱きながらじっとしている。我ながら寂しい…!


今頃世間のカップルたちは今日という日をラブラブに過ごしているんだろうか。くそう、羨ましい。すごく。

私だってペンギンに会いたかったんだからね。ただでさえ会うの久々だったんだから。
だけど仕事なら仕方ない。
我が儘言って面倒な女にはなりたくない。


キッチンへ行き、ペンギンの家に持参するつもりだった酒を取り出す。
今日はこれを飲んでしまおう。寂しくひとりで飲み明かそう(幸い明日は休みだった)。

コップをひとつ棚から出す。
酒瓶の蓋を開き、中身を注ごうとした時



がちゃり



玄関の鍵を開ける音がした。
次に扉を押し開く音。
そして廊下に響く足音。


こんな夜中に、泥棒?と思ったけど、合鍵を渡している人物を思い出す。

そして予想通りの見慣れた顔。


「…」
「遅くなった。」


今すごく嬉しい。のに、可愛くない態度を取ってしまう。
顔をそらして拗ねたふりをする。
怒ってなんかないのに。
大変だったはずの残業を終わらせて来てくれたのに。
ペンギンは私の隣に座る。


「遅くなってごめん」
「…突然来られてもさ、」


困るんだけど、と呟く。私可愛くない!


「メールはした」
「だって残業があるから会えないって」
「残業があるとは言った。会わないとは言ってない」


…。
…え、なにそれ。
少し考える。ペンギンからのメールには残業が入ったと連絡があった。そして「残業=会えない」と思った。
そして携帯はベッドの下に投げ込んでしまった。その後、連絡は取っていない。


「おれは、会わないなんて、言ってない」



ペンギンがもう一度言う。
そこで理解する。
私は勝手に勘違いしてペンギンに拗ねた態度を取っているらしい。
ただ、ちょっとすれ違ってただけ。
そう思うと全部面倒になった。
考えるのも、こんな態度をとるのも。
もう止めよう。素直になろう。
せっかくペンギンが来てくれたんだから。


「私、ペンギンから残業ってメール来て、勝手に会えなくなったと思ってた」
「ああ」
「勘違いだった。ごめん。久々に会う予定だったのにって思って、寂しかった。怒ってなんかないよ。」



思い切ってペンギンに抱き付く。ああ久々のペンギン!


「…ごめん」
「もういいよ、会えたし。むしろ私がごめん」
「そうじゃなくて、プレゼント、家に忘れてきた」


ホワイトデーの、と呟くペンギン。用意してくれていたことに嬉しく思う。


「それもいいよ。今日じゃなくたっていいんだから。」
「…そうか」


ああ、今日は残り数時間しかない。どうやって過ごそうかな。蓋は開けちゃったけど、お酒を飲もう。料理も今から作ろう。
冷蔵庫の中身を思案していると、じゃあ、とペンギンが口を開いた。


「プレゼントは、おれってことで」


にやり、と笑う口が近づいてきた。










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ペンギンにやられたら悶える。

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