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彼とのキスは首が痛くなる。

私と彼の唇同士をくっつけようとすると、私はほとんど真上を見るような体制になるからだ。

私の身長はお世辞にも高いとは言えないし、彼は男性で、普通よりも高めの身長。
私たちにはそれなりの身長差が存在する。


だから、彼の顔を見ようとすると首の筋肉が軋むような感じがする。



「…なぁ」

「なんですか?マルコさん」

「…」

「?」



身長差について考えていたら、声をかけられた。
今はその彼、マルコさんと船上を散歩中。



「なんですか?」



話しかけられたのに、黙ってしまったマルコさん。
いったいなんだろう?



「…なんで、」

「?」

「なんで、さっきから前ばっか見てんだよい」

「…そりゃあ、前向いてないと歩くの怖いですから」

「、そうじゃなくて」

「?」

「おれが話しかけても、なんでこっち向かない?」




そこで、視線を前から隣に移し、マルコさんの顔を見上げる。
(やっぱり首は痛かった。)


するとそこには、ちょっと怒ったような拗ねたような、少し珍しい表情のマルコさん。
思わず笑いそうになってしまった。
でも本当に笑ったら、それこそ拗ねてしまうので我慢。



「あのですね、首が痛いんですよ」

「…ケガか?」

「違います。マルコさん背が高いじゃないですか。私、首が疲れるんです」



そこまで言って顔を前に戻す。
いつもなら話す時にはしっかり相手の顔を見る。
普段の距離感ならば、それほど首に負担がかかるわけじゃない。
でも今みたいに肩がふれそうなほどの距離だと話は別になる。


隣からは不服そうな雰囲気が感じられた。


(なんですか、寂しいんですかマルコさん。)



やっぱり少し笑ってしまった。
と思ったら、


(…わお)


ちらりと覗いたマルコさんの口角は、これでもか!というほどに下がっていた。
うん、予想通りに拗ねたみたい。


「…」

「……」

「………」

「(なんだろうなぁ、おじさんだけど可愛い)」




さて、どうしようか。
少し考えて辺りを見る。



「(…おっ)」



いいもの見つけた。



「マルコさん、ちょっと来てください」

「…なんだよい」

「こっちです」




マルコさんの袖を引っ張る。
少し歩いた先にあったのは、積み重なった木箱。

私は素早くその上に立った。



「わわっ」


少しだけぐらついたけど、マルコさんが肩を貸してくれて転ぶことは無かった。


「危ねぇよい」


目の前にはマルコさん。
さっきと違い、今は木箱ふたつ分のおかげで私の方が背が高い。
いつもと違う視点。




「ほら、これでちゃんと顔が見えますよ」



そう言って笑うと、彼はよくわからない表情をして頭を撫でてくれた。




「あれ、まだ不服ですか?」

「なんかなあ…お前の方でかいって微妙だよい」

「でも私は首が疲れません」




そう話していて、思いついた。
ちょっとした悪戯心。


「それに、ほら」


自分のかさついた唇を普段なら絶対に届かない彼の額に押し付けた。



「でこちゅーだってできちゃいます」












木箱ふたつ分




(…唇じゃねぇのかい?)
(え、恥ずかしいです)
(この距離だとキスしやすいな)
(!)


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