「どうにかなりませんかね」と粘っているとペンギンさんは面倒そうに「捨てようと思ってたやつだから」と、黒いTシャツを差し出してくれた。
捨てようと思っていたイコール必要ないイコール、
「じゃあこれ貰っちゃっていいんですか?」
「好きにすればいい」
「では頂きますね!」
Tシャツゲット!よし、素肌に作業着は免れた!
すぐシャワー室に引っ込み、頂いたシャツを頭から被る。
着てみると結構大きくて、膝の上まですっぽりと隠れてしまった。
うーん、ペンギンさんわりと華奢に見えるけど…これが男女の体格差ってやつなのかな。
下はさすがに借りるわけにもいかないし我慢しよう。うん。
慣れないツナギをもたもたしながら着こんでファスナーを閉めた。
これは、まあ予想通りぶかぶかで手も足も布が余っている。
袖を引っ張り上げているとドアの外から声をかけられた。
「着たか?」
「わっ、ペンギンさんまだいたんですか」
「終わったなら開けるぞ」
返事も待たずに入ってきたペンギンさん。私が着替え中だったらどうするんだろうか。…顔色変えずさっさとしろ、とか言いそう。
「やっぱりデカイな」
「しょうがないです。借りれるだけで有り難いし、大丈夫です!」
ぱたぱた手を振るとそれに合わせて袖もぱたぱた。
それを見たペンギンさんは一言、「動くな」とおっしゃった。
ん?と思っている間に揺れていた袖はくるくると捲られていく。
「わ、ありがとうございます」
「足は自分でやれよ」
「はいっ」
裾は動きやすいように膝下くらいまで捲っておいた。よし、完成。
「甲板まで行くんだろう」
「はい」
「おれは船長に用事があるから」
じゃあな、と言ってペンギンさんは行ってしまった。
…いや、一緒に来てもらえるとかは思ってなかったけどね。道わかるか?みたいな一言もなかった。ペンギンさんって親切だけどドライな性格らしい。
さて、甲板に向かおうか。
バスタオルに包んだ服を持ち上げて歩き出した。
無事にたどり着いたはいいけど、誰もいないというこの状況。
ぽつんと膝を抱えて座りながら海を見て待っていた。
かれこれ20分は経っているんですが…時計ないから正確にはわからないけど。
「海風が冷たい…」
「おー×××。来てたか」
呟いたと同時にシャチさんは現れた。遅いですよ全く!
「どこ行ってたんですか…。結構長く待ってました。しかも風呂上がりの外は寒いです」
「え、いや、女は風呂長いと思ってたし、」
「15分で済ませましたよ!」
「あーそっか、悪いな」
へらっと笑いながら謝罪を口にしたシャチさん。謝る気ないなこの人。
「怒るなって。お前の寝床用意してたんだ」
「…寝床?」
「使える部屋探してさー」
「えっ、個人的な部屋貰えるんですか?そんな、床と布団さえあればいいのに」
「野郎の部屋で間借りさせるわけにもいかないだろ」
と、ちょっと真面目な声で話すシャチさん。いい加減な人と思っててごめんなさい。あなた良い人だった!
「じゃあ次は部屋に案内するから」
「ありがとうございます、シャチさん。そしてごめんなさい」
「は?」
再び二人で船内を歩く。
この道順も覚えなくちゃなあ。
「それより、その服どうした?
「あ、ペンギンさんが用意してくれました」
「ふーん」
「皆さんとお揃い、ですね!」
「ははっそうだな。しかし丁度よかった」
「?」
何がですか?と聞こうとしたら部屋に着いたみたい。此処な、とシャチさんは木の扉を指さした。
こんにちはマイルーム。
これから私が君の主です。