私が挨拶し終わらないうちに船長さんはドアに向かって行ってしまった。忙しいんだろうなあ。
「…それであの、とりあえずシャワーお借りしても?」
ずぶ濡れのままっていうのはなんとも恥ずかしいわけで。髪の毛も塩水でキシキシしている。あと寒い。
「じゃあおれ案内するわ」
「あ、お願いします」
「ん、こっち」
ペタペタと歩きながら自己紹介された。サングラスでキャスケットを被ってるお兄さんはシャチさんというらしい。
「お前助かってよかったな、運いーぜ」
「ほんとですよー。あのまま漂ってたら衰弱死?とかになってました」
「海王類食われたりとかさ」
「カイオウルイ…?」
それはつまり、サメやクジラだろうか。…自分が食べられて、海が血で染まる想像しちゃった。怖い。
「はい、着いた」
「ありがとうございます」
「タオルとか適当に使っていいから。終わったらまたさっきのトコ来て。道わかるよな?」
「はいっ大丈夫です!」
ひらひらと手をふりながらシャチさんは去っていった。さあやっとシャワー!
服を脱ぎ、ついでに洗ってしまおうと浴室に濡れた衣類を持ち込んだ。
「あーさっぱりー…」
頭からぬるめのお湯をかける。流れてきた水分が口に入って少ししょっぱかった。
頭を洗い終わってから桶に服を入れて、じゃばじゃば洗っていく。石鹸の泡がふわりと飛んでいった。
どこに干そうかな…日当たりがいい場所があれば、いや人目に付いたらまずい。仮にも女の子の下着だ。
「どっか良い場所ないかベポくんに聞こう」
冷えていた体温も大分元に戻ったし、くしゃみはもう出ない。鼻水はまだ止まらないけど。
顔と身体を洗ってる最中にふと考えた。
今、海のどの辺りを進んでるんだろう。家に帰れるまでどれだけかかるかなあ。後で聞くの忘れないようにしないと。
そんなこんなでシャワー終了。
脱衣室に戻って身支度をしていく。髪を乾かそうとしたけど、ドライヤーがなかった。皆さん自然乾燥ですか…ワイルド…。
洗った服はタオルに挟んで踏んづけて脱水した。
と、私はとても重大な事実に気付いてしまった。
やばい、
「着る服、ない」