あーいきゃーんふらーい | ナノ



カーテンを開けると部屋に朝日が入ってきた。眩しい。良い天気だ。





思えば、ベポくんと出会って今日で丁度一週間になる。








本日の朝食はハムとチーズのサンドイッチ、生野菜サラダ、インスタントのコーンスープでございます。なんてお手軽!

しゃくしゃくとサラダのレタスを食べながらベポくんを伺う。昨日よりも意識はしっかりしていて、そんなに眠たそうではない。調子はいいみたい。
お気に入りの魚肉ソーセージを食べてご機嫌なようだ。

うん、大丈夫、かな。





「ベポくん、午後からちょっと出かけてくるね」


「なんか買い物?」


「ううん、フィルムの現像出してくるだけ!カメラ屋さんに行くんだけど」


「ふーんそっか、わかった!お留守番は任せて!」


「ありがとう。なんか欲しいものあったら買ってくるよ?」


「ほんと?じゃあねー、この前のケーキまた食べたい!」


「わかった、ただし今回は一個だけね!」




ベポくんはショックを受けた!135のダメージ!








「じゃあ、いって来まーす!」


「いってらっしゃーい!」


「あ、冷蔵庫のプリン食べていいからね」


「アイアイっ!」





鞄に入れたフィルムを確認して、ベポくんに見送られて出発。
昨日調べておいたお店はわりと近所にあった。ちょっと頑張って、徒歩で行ける距離。知らなかった。











「では出来上がりは一週間後になります。3時くらいに、またいらっしゃってください」


「あ、わかりました。ありがとうございます」





店員さんに挨拶して店を出た。写真が手元にくるのは来週らしい。ちょっと時間かかるんだなあ…。

あ、今気付いたけど、シロクマと一緒に写ってる写真とか見られてびっくりされたりして?



「…まあ、どうにでもなるか」











頼まれてたケーキも買って、用事は全部済ませた。ちなみに今回は抹茶のエクレアとイチゴ大福です。和風。

さて、あとは帰るだけ。思ったよりも早く家に着きそうだ。







てくてくてく。

家に向かって歩いていると、ふいに目が合った。例のトイショップ。虎のぬいぐるみ。
しかし今回はショーケース越しではない。店の外で、ワゴンの中。
つまり半額セールだった。



「…やっほう、二度目まして。相変わらずの目力だね!」



と、思わず挨拶した。
…今ちょっと不審者だった!周りに人がいなくて良かった。



「虎、か」



ベポくんの船長さんも虎、というのは私の中で定着している。
そして、こっちをじろりと見つめる虎さんは1200円のところ、現在商品入れ替えのため特別価格600円(税込)。






てくてくてくてく。
家に向かって歩く私の手には、ひとつ紙袋が増えていた。








「ただいまー」


「お帰りなさい×××!」



ちょう笑顔で出迎えてくれたベポくん。昨日あんなに眠そうだったのに…いや、元気なのはいいことだよ、うん。
それに、家に着いたらベポくんはいませんでした。なんてパターンも予想していた。ちょっと安心。


さて、ベポくんの視線はしっかりケーキの箱に注がれているわけで。



「これは晩ごはんの後だからね!」


「アイアイ!」



紙袋は鞄のなかに隠しておいた。このぬいぐるみも、ごはんの後にプレゼントしよう。



「今日はなにしてた?」


「テレビ!すごいよ、みんな土下座してて」


「?」


「おれもインロー欲しいなあ」


「…ベポくん、渋いね」









某時代劇を気に入ったらしいベポくんは、悪代官になりきっているようだ。「お主も悪よのう」なんて、お決まりのセリフが聞こえた。しかしなぜそっち。



そんな声を聞きながら手元に目を向ける。
フライパンに溶き卵を入れて、少し火が通ったら、用意していたチキンライスをくるむ。
オムライスって便利だ。さっさと用意できて、なんとなく豪華に見える。簡単なサラダを添えて出来上がり。

ベポくんを呼ぼうとして、思い立つ。鞄から紙袋を出して冷蔵庫に入れた。ケーキと一緒に出してサプライズしよう!
多少冷えるけど、大した問題ではない。
さて、準備はできた!




「ご飯できたよー!」



すぐに「アイアイ!」と返事が返って、来ない。ざわり。



「…ベポくんー?」



また寝てしまったのか、と思い様子を見に行く。しかし、そこには誰もいない。



「………」



ぐるっと部屋のなかを見てまわった。
リビング、玄関、風呂場、トイレ、寝室、ベランダ。
最後にもう一度キッチンに戻って確信した。

というか、確信していた。
確認した、というのがきっと正しいんだろう。



「いなくなっちゃったかぁ」



さっきまで聞こえていた「お代官さま!」だとか「金の菓子でございます」というのが、私にとってベポくんの最後だ。



「…変なタイミングで消えるなよう」




お別れは言えなかったし、
オムライスは二個作っちゃったし、
せっかく買ったケーキは無駄だし、
ぬいぐるみは冷蔵庫で冷えているんだよ。

そうしてちょっと考えると、次々と後悔が浮かんでくる。


アイアイを言うタイミングを聞いてない。
お腹に乗せてもらえなかった。
ホットケーキも一回だけだったし、それに、



「まだ、写真にもなってないのに」



今日出してきたばっかりだ。間に合わなかった。
他のはまあいい。けど、写真だけ心残り。何かしらの形で一緒に過ごした時間を残したかった。

そんな、ちょっと沈んだ気持ちになったけど。
ふと、考え直す。





「…次に会った時、」


もう二度と会えないとは決まってない。そんなことは誰も言ってない。


あのおかしなシロクマさんは、いつの間にか現れて、いつの間にか消えたのだから。

いつの間にか、戻ってくるかもしれない。


だから、また会えた時に。











キッチンのイスに座り、冷えかけたオムライスにケチャップで線を描いていく。

さて、できた。




「ベポくん、一週間ありがとう」



黄色い卵の上には、不細工なクマが笑っていた。



賑やかだった一週間








end


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