ぱちり
そんな擬音がしそうなくらいにはっきりと目が覚めた。
普段ならばまた暖かい布団に逆戻りだけど、私はむくりと起き上がる。
爽やかな朝。私がこんなに目覚めがいいのも珍しい。そしてさて気持ちいい朝日でも堪能しようかなっ、とカーテンを開けた私は叫び声をあげることになる。
「ぎょええええ」
思わずカーテン閉めた。口も閉じた。おっといけない近所迷惑、と冷静に考えつつ混乱する。
「く、くまがいた?」
えーなにこれなにこれどうしよう。どこに通報したら…保健所?動物園?け、警察?
はっもしやどっきり…?どこだカメラ!私の寝顔とか撮ってないだろうな!
ここまでを考えて、思い出す。
昨日なぜか置いてあったぬいぐるみを出したんだった。私ってばうっかりだなあはははと笑いながらカーテンを開けた。
ていうかそもそも、なんでそんなものがここにあったんだ。やっぱどっきりか!不可解なものがあるという状況に置かれた私が慌てふためく様子を楽しんでるんだな!誰だ仕掛人は、みっちゃんか!
と思ってたらなんとクマが起き上がったではいか。むくり。
そこで私の恐怖ボルテージは振り切れた。えっやばいやばいやばいしぬしぬしぬ襲われるしぬ襲われるしぬやばいやばいやばいやばいしぬしぬ
べん べん
がくぶるしてると音がした。ベランダのシロクマが窓を叩いてる。地べたに座ったクマはこっちに顔を向け、
「ねーそこの人、助けてー」
私ったらいつの間に動物と会話できるなんていう能力身につけたんだろう。すげえ私。
「ねーお願い、ここ寒い…」
「あっちょっと待ってね今開けるからね」
思わず鍵を外し、部屋に招いてしまった。やばい襲われたらどうしよう。
「ありがとう」
「あ、ううん、どういたしまして」
このクマさん、いい人…いい熊のようだ。ちゃんとお礼が言えるんだからきっと悪い熊じゃない!襲われるとか思ってごめん。
それから、まあなんやかんやあり朝食を食べている。現在クマと食卓を囲むっていう…。違和感しかない状況です。
食後の緑茶を飲んで一息つく。
「それで、まとめますけど」
ご飯を食べながら色々話した。どうやらどっきりではなく、着ぐるみでもないらしい。そして私に特別な能力があるわけでもないようで、ほんとに喋ってるんだ!と言ったら「シロクマが喋ってすいません…」と落ち込んでしまった。ナイーブな性格だった。
で、だ。
「ここがどこだがわからなくて、どうやって帰ればいいのかわからない、と」
「うん…」
「世間一般でいう迷子だね!」
「おれ、船長とみんなのとこに帰りたいよ!」
「クマさんは船乗りなんだ」
すると、ううん海賊。と返された。まあ、どうやらこのように迷子らしい。なぜうちにいたのかもわからないという。
知らないとこにひとりぼっちなんて、不安だよね。
「ねえクマさん」
「なあに?」
「うちに泊まりません?帰れるまでいて大丈夫だよ」
「…いいの?迷惑じゃない?」
「全然いいよ!」
クマさんはありがとう、とにこっと笑ってくれた。あ、そういえば。
「改めまして、私は×××です。よろしくね」
「おれはベポ!しばらくお世話になります。よろしく、×××!」
(今日の晩御飯はご馳走にしようか!ベポくんはなにが好き?)
(おれ、アザラシとか大好き!)
(…ちょっと無理かなー)