半歩遅れの葬礼
三代目火影様が暗殺された。木ノ葉の里にとって、世界中にとってそれは一大ニュースとなった。
たとえ犠牲者が現役の忍でなかろうと、暗殺者の侵入を易々と許し、さらにはかつて栄華を極めた男を一人殺してみせたのだ。
瞬く間に広まった一報に各国は警戒を強めた。最近風影を誘拐した暁か。はたまた数年前木ノ葉崩しを目論んだ大蛇丸の仕業なのか。犯人像はいまだ憶測の域を出ない。
唯一残った犯人の手掛かりは、殺害現場に残されていた血で書かれていた文字。
仇
災厄再び
獣牙を剥く
この三つのキーワード。犯人が一体何を思ってこの言葉を残したのか。その真意すら掴めない。しかし現場に残った血液の量からもう一人死人がいたのではないかと推測できる。
三代目の葬儀はしめやかに執り行われた。
猿飛ヒルゼン。世代を交代しても尚栄光を語り継がれる火影。三年前には既に今のような光景が広がっていたかもしれぬ、という可能性もある。
されども、それはごく僅かな者にしか想像できない状況。現状を嘆き悲しんでいる者には関係のない絵空事に過ぎない。
ひそひそひそ。涙を流すことと同義であるように恨みの言葉が里に蔓延る。
「『人』と『九』の字。やつと化け狐のことだ」
「きっとそうだ。そうに違いない」
「早いとこ始末しないと」
これを聞いたやつの同期は渋い顔をしていることだろう。だが、自分に言わせてみればこの判断すら甘いものに聞こえる。
言葉を口にすることなら誰にでもできる。だが、誰も実行には移せない。口だけだと罵れば、居所さえ掴めればすぐにでも殺してやるさと大口をたたくことだろう。
猿飛ヒルゼンの体内からは麻酔薬が微量に検出された。
この、もう一つの痕跡が露見すれば面倒なことになりそうだと、裏の仕事で長年培ってきた感により、その事実を隠蔽した。麻酔薬の用途など限られている。抵抗力を奪うためか、或いは。
思い浮かぶ犯人に当たる人物が一人いる。里の者のようにしょうもない言いがかりではなく、組み立てたロジックの先に答えが。
もしあれが今回の事件の実行犯だとすれば。そうであれば里の人間はやつの危険性を甘く見過ぎていることになる。
とうとう牙を剥いたか。こうなった以上、一刻も早い粛清が必要だ。危険因子は全て排除するべき。里を保つためには必要な考えだ。
だがやはりあの時もっと上手く取り込めていれば。そんな後悔の念が今も心を蝕んでいる。
ダンゾウの疑懼
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