とっておきA
「またそれか?くだらない」
もうその戦法は飽き飽きだとでも言うようにサソリは呟いた。
サクラが走り出した。サソリが砂鉄を動かす。それを見たチヨバアもサクラを追った。サソリの動きを察知したチヨバアがサクラの体を引く。サクラが避けた砂鉄は背後の森に道を作った。
「いっくぞーッ!はァッ!!」
サクラは思い切りチャクラを込めてサソリ目がけて砂鉄をぶん殴った。サソリは跳躍してそれを避ける。
「っぶね!まったく…息切れしてろくに動けねェってのによ」
見れば冷や汗を流して頭を下げている狐の面がいた。ぜえはあと言葉通りに息を切らしている。さっきの抜け穴脱出の終盤の時か。
死んじまうっての…とぶつぶつ言いながら我愛羅を引きずりながら自分は這いつくばって移動する。
サソリの傍に行った時、サソリが狐面の首襟を引っ張り隅へ放り投げた。ちょーい!と叫び声を上げる。本当にあの人には緊張感というものがないのであろうか。
フ、と鼻で笑ってサソリは砂鉄を再び動かす。
ピラミッド状のものを回転させながら動かし、背後から直方体のもので襲う。それをサクラが避け、時に殴る。
「そっちかァ!」
叫びと共にサクラが蹴り飛ばした砂鉄により森にはまた道が開いた。
「小娘のくせに大した怪力だ」
サクラは息を切らしていた。だがこの短時間においてサクラはチヨのサポートなしでも十分ととれるほどサソリの攻撃パターンを見切り始めていた。
サクラは綱手との修行風景を思い出す。
医療忍者に第一に必要なものは回避能力。医療忍者が死んでは他に隊員を治療する者がいなくなる。それは綱手からの教えであった。
右の指を動かすと、左手を動かすと…。相手の動きを観察し、パターンを見極める。サソリの攻撃を避け、時たま殴りつけたりなどを繰り返し、サクラに攻撃が当たったことは一度もない。
「(よく見てやがる。このままじゃ時間を食う。多少のチャクラを使うのは止むを得ん。アレで仕留めるか…)」
このままでは自分がやられるとサソリは三代目を動かす。
「【砂鉄界法】」
砂鉄が集まり枝が茂るようにして範囲を広げていく。避けきれるかわからない。チヨがサポートを出した。
砂鉄が地に突き刺さり、チヨは岩に挟まれ身動きが取れなくなっていた。サクラが岩をどかして立ち上がる。
サクラの息は浅い。よく見ると右腕に掠り傷を作っていた。仕込みには毒がある。きっと砂鉄にも染み込まされていたのであろう。サクラは膝をついて倒れ込んだ。
「毒が効いてきたな。すぐに体が痺れて動かなくなる。放っておけば三日は持つが…そんなつもりはない!」
三代目を動かした。鈍く光る刀を取り出し真向にサクラに向かう。
「終わりだ、小娘」
「サクラ!」
絶体絶命だ。
そう思った時サクラが起き上り三代目の傀儡を粉砕した。三代目が壊れたことにより砂鉄は崩れ落ちていく。サクラはチヨの元へ向かい、彼女の体を押えている岩を押しのけた。
サソリは疑問に思う。チヨの糸で操っているわけでもない。サクラは今自分の意思で動いている。毒を食らったはずなのになぜ。
「解毒薬」ぽつりと狐の面が言った。視線が彼に集まる。なぜそれを。サソリだけが「そういうことか」と呟いた。
「あはは…なぁに?どうして解毒薬の存在を知られたのかって顔してるけど?」
狐の面は我愛羅の髪を梳きながら笑った。
サクラは悔しそうにしながらも二人に見えないようにチヨに残りのもう一つの解毒薬を渡し、腕を治療する。
「最初から知っていたのか?」
「あは……さあ?」
完全に観客に成りきっている狐の面は愉快そうに声を殺して笑い続ける。
チヨの治療を終えたサクラは荒い息を繰り返す。すでにチャクラは残り少ないはずだ。解毒効果は三分。時間はごく僅か。
サクラの奮闘具合を見た狐の面がサクラに問うた。
「君はなぜ闘う?」
「忍だから、大切なものを守るためよ!」
時間がないため焦っているせいか。それとも相当の覚悟ができているからか。サクラは大声で即答した。だが、狐は面の下で冷たい表情をする。
「そのためには他人の大切なものを踏みにじるのか?」
サクラは言葉に詰まった。まさかそう返されるとは想定していなかったから。
「オレは答えなどとうに出している。けれどそれを教える義理はないから教えない」
隠し玉
(奥の手は最後に)
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