星の瞬き | ナノ


  赤き天才傀儡師A


サクラの拳がヒルコの背を叩き割った。固い甲羅は音を立てて崩れていく。


「ヒュー、やるねェ」


ひゅっと一つの影が飛び出た。サクラを囃し立てた狐の面の隣に座り込む。

ようやく出て来たか、とチヨバアが。あれが本体…と言ったのはサクラ。サクラの息は切れている。


「二十年ぶりにまみえようではないか」


サソリがくいと指を動かすと壊したはずのヒルコの首が動いた。まだ動くのか、宙に浮いたヒルコの口の中から再び千本が飛び出す。

チヨバアが腕を思い切り引くと、それに反応したようにサクラの体が動いた。やっぱりな、とサソリは呟いた。


「流石…オレのババアなだけはある。道理で小娘までオレの仕込みを躱せたワケだ。オレの攻撃を見切れるババアが、傀儡の術のチャクラ糸で小娘を操ってたんだからな」


サクラの体にはチヨの指から伸びたチャクラ糸がつながれていた。気付かれてしまったとサクラは焦る。


「それにだ。ご丁寧にヒルコの尾にまでチャクラ糸を。しかし尾の動きを止められて初めて気付かされるとはな…。最初にクナイで攻撃をした時だろう?クナイにつけていたチャクラ糸をクナイを弾いた尾に付け替えた」

「ほぅ。目に見えぬようチャクラをギリギリまで抑えていたというのに、良く分かったな」


流石の観察眼、と言うべきであろうか。サクラは傀儡師の細かな戦略に感心する。


「そりゃあそうだろ。傀儡遊びをオレに叩き込んだのは他でもない、アンタだぜ」

「ああ。じゃが遊びは今日で終わりじゃ」


サソリは振り向き、黒いマントに手をかけた。


「さーて…そう簡単にいくかな?チヨバア様よ」


マントをはいだ中から現れたのは、赤髪のまだ若い青年だった。


「チヨバア様!こいつが…こいつがサソリ!?」


サソリは二十年も前に里抜けしたはず。こんなに若いはずがない。昔のまま姿を変えていないのだ。

狐の面が一人腕組みをして突然うんうんと頷き始めた。


「うん。やっぱ年齢詐称ってダメだと思うんだよね。でもこれもこの世界の性というか…空しきかな」

「うるせェぞ」


ごつん、とサソリは狐の面の頭をまた殴った。狐は「いってーッ!」と悲鳴を上げる。


「何もしてねェくせに騒ぐだけ騒ぎやがって」

「いやいやいや!今回の一番の功績者はオレだぜ!?」


はーあと溜め息を吐いて狐の面は傍らの我愛羅の頬を撫でた。彼のあまりの緊張感のなさにこちらは唖然としそうである。


「お前……なぜその姿のままなんじゃ…!」

「一年ほど前なら全身傀儡だった、で説明できたんだがな。人から傀儡に、傀儡から人になっただけのこと。今は忌々しいことに生身の体だ」


あのこと根に持ってたのか。今度謝っとこう。狐は面の中で冷や汗を流しながら思った。サソリの眼光が恐ろしい。

「なぜ」ほぼ呟きに近いチヨの疑問の言葉を狐面が耳で拾った。


「なぜ?その原因は偏にオレにあるだろうな。なにせ実験の副産物がこれなんだから」

「……チッ」

「実験?」

「そ。忍術の実験。もっと詳しく言うと、転生忍術の実験」


転生忍術、とサクラは繰り返した。その名の通り、生命を蘇らせる術のことだ。


「そういや砂のチヨ様も転生忍術の研究をしていたことがあると聞いたことがありますよー?」


如何にも。チヨは眉を顰めた。


「己の生命エネルギーをそのまま分け与える禁術…」


転生忍術は人には許されない、禁断の術だ。

そもそもその忍術はチヨバアがサソリのために長年かけて編み出した術。これがあれば傀儡にさえ命を吹き込める。術者の命が尽きるのと引き換えに。

チヨバアとサソリの脳裏に浮かぶのは彼が幼き頃の日々であった。チヨが目指したのは幼いサソリに両親と再会できるようになること。


「じゃが…今となってはもはや叶わぬ夢だがの……」

「……くだらねェ」


徐にチヨは袖の中から二本の巻物を取り出した。口寄せの術の式が書かれた巻物。

チヨが呼び出したのは二対の傀儡。「ああ、それか」まるでその二体を知っているかのように言うサソリ。狐の面にはそれだけでこの二体の傀儡がどういうものなのか理解した。


「そうじゃ。お前が造った最初の傀儡…“父”と“母”じゃ」


父、母と言う名の傀儡にサクラはどういうものなのか気にかける。サソリのような赤髪の男に長い黒髪の女をそれぞれ模した二体の傀儡だ。これらはサソリが初めて造った傀儡であり、己の両親を元に作り上げたものであった。


「道を踏み外した孫を両親の手で葬ってやるのはせめてもの情け」

「くだらねェ…実にくだらねェ。だが、そんなに殺されてぇならオレもとっておきを見せてやるとしよう。殺す時苦労したコレクションだが…それだけに、一番気に入っている」


サソリもまた、袖から一本の巻物を取り出した。巻物には“三”という文字が目立つように書かれている。現れた傀儡にチヨが息を呑んだ。


「そ、それは…まさか…っ、三代目風影」


口寄せされたのは一体の傀儡であった。浅黒い肌が際立つ男の傀儡だ。サソリは冷たく笑った。

十年以上も前、突然里から三代目風影が消えた。手を尽くしたが、結局三代目の死体すらも見つからなかった。最強の風影であったのに。


「サソリ、お前が…!」

「だったらどうした。隠居した死にかけのババアが三代目の敵討ちでもするってのか?ご苦労なこった」

「…隠居の死にかけでもわざわざ重い腰を上げてみるもんじゃ。まだまだ死ぬには心残りがありすぎる。我が孫が…悪党に身を落とすだけならまだしも、里を裏切り三度までも風影に手をかけようとは」


三度、この三代目と向こうの我愛羅を数えても数が合わない。


「我愛羅の父、四代目風影を襲ったのは大蛇丸じゃったが…それを手引きしたのはこやつじゃ。そして今回の我愛羅も。さらには三代目まで」


憎々しげにチヨバアは言った。身内への憎悪がそこには含まれているようだ。


「あっはは!ざまあ!誤解されるようなこと沢山してくるからこうなるんだよ!」

「…そうか。テメェもオレのコレクションになりたいみてェだな」

「まじゴメンゴメン!許してって!」


またもやサソリの反感を買った狐の面。彼は一体何がしたいのか。サクラは呆れるばかりだ。


「チヨバアよ。四代目っつーのはオレは知らねーぜ。手引きはオレの部下がやったことだ。確かに暁では元々大蛇丸と組んでたから、色々やったが…」


サクラの頭を過ったのは大蛇丸の顔と、それから彼女の…。


「あなたは…あなた、大蛇丸と組んでたってことは…大蛇丸の事を……。なら色々と聞きたいことがあるわ」


サクラは言いたいことが山ほどあったが、やっとのことこれだけを言えた。チヨバアの脳裏に蘇るのはここに来るまでのカカシとの会話。

――この班には昔、もう一人班員がいたんです



「…それは、ナルセのことか?」


サクラは驚愕した。なぜサソリがあのナルセのことを知っているのか。


「お前ら木ノ葉の連中に話すことなんざ何もねェ。あいつを引き留められなかった上、あいつがテメェらを頼らなかったんだからよ。あいつのことを何もわかっちゃいねェテメェらに、あいつのことについて話す義理なんざねェ」


今度はサソリが憎らしく語り始めた。


「家から一歩外に出れば化け物だと罵られ、家に帰っても生れ落ちてすぐ親と引き離されたから独りだ。傍にはいつも狐が一匹いるだけ。その孤独がテメェらに理解できるのか?」


どうしてサソリがナルセのことをそんなに詳しく知っているのか、サクラにはわからなかった。

確かにサスケはナルセは暁とつながっていると言ったが、いくらなんでも詳しすぎる。なぜなのだ。驚きの事実にか、サソリの憎悪のこもった瞳にか、サクラは冷や汗を流した。




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